医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.358、359】

今回は、説明義務違反が認定された事案を2件ご紹介します。

No.358の事案では、心臓カテーテル検査と患者右足の血管閉塞、足趾切断との因果関係も争点となりました。

裁判所は、患者が検査前から両足尖部のしびれや痛みを訴えており、検査前には右足により強い間欠性跛行を訴えていたこと、転院先での手術の際に得られた所見は、糖尿病患者や慢性透析患者に特有の強い閉塞性動脈硬化症の所見であったこと、本件検査時に患者の足背動脈は触知していること、患者の足趾に虚血が生じた経緯をみると、本件検査と同様の手技により血栓が生じた場合に必要な処置を行うべき時間とされる2ないし6時間を遙かに経過した後に生じたものであること等に照らすと、患者に生じた血管閉塞は、本件検査により生じる血栓症ではなく、患者がかねてより罹患していた閉塞性動脈硬化症が急性増悪したものと認めるのが相当であると判示して、検査との因果関係を認めませんでした。

No.359の事案の紹介にあたっては、一審判決(東京地方裁判所平成16年1月30日判決・判例時報1861号3頁)も参考にしました。

なお、本事案における医師法違反(刑事責任)に関する最高裁判決(平成16年4月13日)を、No.20でご紹介しております。

No.359の事案で、院長側は、死因についての説明は過失の説明にほかならず、医療従事者に制裁を受けることを自ら進んで協力するよう求めることになり、憲法38条の黙秘権の保障の趣旨からも是認できないことなどを挙げて説明義務違反はないと主張しました。

これに対し、裁判所は、憲法38条1項は、何人も自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障したものであるが、説明義務の履行により、担当医師が捜査機関に対し自己の犯罪が発覚する端緒を与えることになり得るなど、一定の不利益を負う可能性があるとしても、それは医師免許(人の生命を直接左右する診療行為を行う資格を付与するとともに、それに伴う社会的責務を課すものである。)に付随する合理的根拠のある負担として許容されるのであって、憲法38条1項は、民事上の責任に関する供述、説明を免れることまで保障するものではないと判示して、院長側の主張を採用しませんでした。

両事案とも実務の参考になろうかと存じます。

カテゴリ: 2018年5月10日
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