ラテックスアレルギーの予防策は講じているだろうか。病院内での医療従事者への対応、患者への対応は十分浸透しているだろうか。ラテックスアレルギーについて国立成育医療センター総合診療部の赤澤晃先生に話を伺った。
ラテックスアレルギーは、天然ゴム製品に対する即時型過敏症だ。皮膚の掻痒感や蕁麻疹など軽い症状からアナフィラキーショックという呼吸困難や意識障害をおこす重篤な症状に至る場合もある。
「ラテックスと交叉反応性のあるクリ、バナナ、アボカド、キウイフルーツなどの食物アレルゲンが注目され、多くのラテックスアレルギー患者でこうした食物にも反応することが報告されています。また食物アレルギーからラテックスアレルギーが発症する場合があることもわかってきて、食物アレルギー患者もハイリスクグループのひとつです。
ラテックス製の手袋を使う医療従事者は、ラテックスアレルギーに感作される可能性があることを念頭におかなければなりません。
手袋使用時に発赤、蕁麻疹が出ればラテックスアレルギーを疑います。まれに咳嗽、喘鳴などの呼吸器系症状、目の痒み、鼻炎症状から始まったり合併してくることがあります」
ラテックスアレルギーの予防策
「ラテックスアレルギーの一次予防は、パウダーフリーのラテックスタンパク質含有量の低いものを使用することです。ラテックスアレルギーの症状が出る前に、非ラテックス製の手袋に替えることが理想的で、症状の発現を防ぐことができます。
ラテックスアレルギーに感作されてしまった段階、または局所の痒み、発赤など軽微な症状が出始めた段階では、ラテックス製医療用具や日用品の使用を中止するという二次予防の対策をとるべきです。そして定期的な専門医による皮膚の診察、血液検査でのラテックスIgE抗体の測定などを行い、感作の程度を観察します。手袋をしなくても手袋についているパウダーに感作することもあるので、職場全体で対策をとる必要がでてきます。
すでにラテックスアレルゲンにより明らかな症状がおこり、アナフィラキシー、呼吸器症状など重篤な症状への進行が予測される段階においては、積極的な三次予防対策を早急に講じます。ラテックス製医療用具・日用品との接触をしないように注意し、接触した場合の処置の教育が重要です」
ラテックス製品の代替品でアレルギーは防げる
「病院経営者がこの問題を真摯に受け止め、まずは手袋をノンパウダーかつラテックスアレルゲンの含有量の少ないものにすべて変更してほしいものです。それらは従来のラテックス製品よりコスト高にはなりますが、医療従事者の健康被害や就業不能になるリスクを考えれば、かえって安いコストでしょう。
アメリカでは1988年から1992年の5年間にラテックスアレルギーによる1,000件以上のアナフィラキーショックの例や、15件のアナフィラキーショックでの死亡例があり、1991年にFDA(米国食品医薬品局)がラテックスアレルギーに関する注意喚起を行っています。その後アメリカでは医療用具へのラテックス含有の表示に関する法律が制定されました。日本でもアメリカに追従するように厚生労働省が注意喚起や、天然ゴムを含有する医療用具についての添付文書などの記載事項改訂を行っていますが、医療現場にはまだラテックスアレルギーの認識が浸透していないのが現状のようです。2004年に当院(国立成育医療センター)の明石真幸らが実施した全国の病院無作為抽出による調査によると、『ラテックスアレルギーを今まで知らなかった』病院の看護部長もしくはリスクマネジャーが12%も存在していました。『二分脊椎症などの特定のグループで頻度が高いということを知っている』人はわずか2%しかいませんでした」
ラテックスアレルギーを発現しやすいハイリスクグループ
手術を受ける患者に対してももちろん同等の注意を払うことが重要だ。広島大学大学院医歯薬学総合研究科 麻酔蘇生学 福田秀樹医師ら(LATEX ALLERGY OASフォーラム2007にて発表)によると、手術前にアレルギー検査を行ったところ8,745例のうちアレルギーの既往のある患者は485例(5.55%)であった。そのなかでもラテックスアレルギーの疑いがある患者は17例(0.19%)で、内訳は女性15例、男性2例で年齢は34歳±9歳(平均±標準偏差)。また天然ゴム製品に対する皮膚症状の既往のある患者がそのうち3例だった。こうした症例に対する手術における対策として当該患者のいる手術室に立ち入るすべての職員に対する周知、および医療材料からのラテックス含有製品の回避を行った。つまり手術用手袋、膀胱留置カテーテルや手術機械類はラテックスフリーの製品を使用し、代用できないものはガーゼやビニールで被覆した。麻酔用器材の回路、マスク、バッグ、気管チューブなどは普段からラッテクスフリー製品を用いている。その結果、調査対象例はすべて異常なく麻酔管理を行いえた。手術患者のアレルギー素因に関しては、術前評価で必ず聴取してラテックスアレルギーを疑うこと、普段からラテックスフリーの環境を整備し、個々に対策を講じることが重要と考えられる。
「乳幼児期から手術を繰り返し、体内にラテックス製カテーテルを留置されることが多い二分脊椎症の患者は、もっともハイリスクなグループのひとつです。下部尿路異常患者なども同様です。
肢体不自由児と重度心身障害者の外来診療および入所ケアを行っている、板橋区の心身障害児総合医療療育センターにおいて、入所中の二分脊椎症の患者幼児2例で、ラテックスが原因と考えられるアナフィラキシーショックがおきています。しかし2例とも当初は抗生剤によるショックと判断されていました。
アメリカではFDAが1991年にMedical Bulletinでラテックスアレルギーに関する注意喚起を行っています。それ以後アメリカではラテックスアレルギーに関する論文が急増していますが、日本ではまだ認知度が低いのが現状です」
行政・経営者・医療従事者の三者での取り組みを
「対策が遅れて後手に回ると日本でもショック死患者が出てしまう可能性があります。そうならないように厚労省もラテックスアレルギーを重く受け止めて、策を講じて欲しいものです。病院経営者も単に経費削減を求めるのではなく、必要なコストとしてラテックスフリーの製品の導入を検討する必要があるでしょう」
赤澤先生は、ラテックスアレルギーの認識が、医師を始め医療従事者に深まるように研究会を主催している。ラテックスアレルギーについて正しい知識があれば、重篤な症状を避けることが可能である。
赤澤先生の主催する日本ラテックスアレルギー研究会では『ラテックスアレルギー安全対策ガイドライン2006』を作成し、1冊1,000円(送料別)で頒布しているのでご希望の方はお問い合わせください。
(問い合わせ:国立成育医療センター 総合診療部内 日本ラテックスアレルギー研究会 FAX:03-3416-0981)
取材・企画:阿部純子