今回は、薬剤投与に関する医師の過失が認められた事案を2件ご紹介します。
No.364の事案では、動脈管の閉鎖予防に有効なパルクスの点滴静注中止について、病院側は、代わりにプロスタルモンの経口投与を継続したので問題はないと主張しました。しかし、裁判所は、プロスタルモンは、一般に妊娠末期における陣痛誘発及び陣痛促進が適応とされており、一部の論文において動脈管開存の効果が期待されて使用されていると説かれているだけのものであり、その論文においても、パルクスに比べると効果の点で必ずしも満足のいかない場合があるとされていることを指摘し、さらに、プロスタルモンの最終投与時刻に照らし、手術開始時刻の2時間以上前には同剤の動脈管開存の効果は消失していたことになると指摘して、病院側の主張を採用しませんでした。
No.365の事案では、医師の過失を否定した一審判決(高知地裁平成13年3月27日)も参考にしました。
同事案では、患者の病理解剖が行われていないこともあり、患者に発症した脳出血の機序が明らかになったとはいい難いものでした。しかし、裁判所は、認定事実に照らし、特段の事情のない限り、医師による脳血管造影検査の続行及びウロキナーゼ48万単位の投与が患者の脳出血を促進・増大させたと推認するのが相当であり、自然科学的な観点からは、患者の脳出血が医師の上記措置と全く無関係に生じたと考えることが不可能ではないとしても、そのことを推認させる具体的事実が認められない限り、そのように判断することは合理的な事実認定とはいえないと判示しました。
両事案とも実務の参考になるかと存じます。