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「医療の質と安全について考える市民と医療者の集い」

先日、本コーナーでも紹介した「医療の質・安全学会」の第1回学術集会が平成18年11月23日(木)~24日(金)、都内で開催された。

23日の公開シンポジウム「医療の質と安全について考える市民と医療者の集い」では、市民と医療者の双方の立場から、意見が交わされた。

今回はその一部分をお伝えする。シンポジストからは以下のような内容の話題提供があった。

医療の質と安全について考える

勝村 久司(かつむら ひさし) 「医療情報の公開・開示を求める市民の会」世話人

昨年、厚労省の医療安全対策検討ワーキンググループに委員として参加させてもらった。その報告書(2005年6月8日)の3本柱の2つめ「医療事故等事例の原因究明・分析に基づく再発防止対策の徹底」を特に強調したい。

1990年12月、長女を陣痛促進剤被害で亡くしたが、裁判で「被害」だと認めてもらうまでに10年かかった。その後、被告病院に「今までのようなお産のやり方を変えてください」という要望書を持って行くと、病院側は「この事故を教訓にして事故防止に努めていきたい」と言ってくれた。そこで妻が「私たちの事故の内容を知っているのですよね?」と聞いたら、誰も答えられなかった。

事故が起こった病院でさえ、反省に活かしていこうということがシステムとしてできていない。医療のアクシデントから学んでほしい。

今騒がれている、一人医師による陣痛促進剤被害は30年以上前から、奈良の救急車たらいまわしのようなことも20年以上前からあること。昔からの医療崩壊が今発覚しているだけである。

被害を繰り返さないためには、チーム医療と医療界内部の民主化、そして患者・家族の医療参加のための情報提供が必要である。

がん体験者の立場から

上野 創(うえの はじめ) 朝日新聞記者/「がんと向き合って」著者

1997年11月、睾丸がんの告知を受けた。すでに肺全体に転移しており、その後、手術、抗がん剤治療、化学療法、無菌室などさまざまな体験をした。

情報化社会の現在、情報はインターネットで簡単に入手できるようになり、同じ病気を経験した人の体験記を読むこともできるようになっている。今までのがん患者より随分恵まれた環境になった。

しかし、インフォームド・コンセントでは好ましくない情報(後遺症・副作用等)も入ってくる。今の時代の患者になるということは、情報を全部引き受けなければならないということ。ハードな情報も受ける覚悟をしていないと、患者は必要以上に精神的なダメージを受ける。私自身もかなりしんどい思いをした。

そうした不安感の中で医療者に対して声をあげるのは困難である。まだまだ声を出せない患者は多い。

私自身、体調の変化をがまんして伝えなかったために、感染症への対策が半日遅れて命を失いかけたことがあった。最近は、クレーマーなど患者に対する批判も多いが、うるさい患者と言われようと、自分の状態を医療者に伝えることは必要だと思う。

実は、治療を受けたのは、あの患者誤認事故を起こす数ヶ月前の横浜市大病院。事故の4ヵ月後、がんが肺に再発したので再手術することになり、どこで手術するか悩んだが、結局、同じ横浜市大で受けた。事故後にきちんと情報を開示していたから信頼できたのである。事故を起こした病院であっても、その後の姿勢次第だと思う。最も悪いのは隠し、逃げることだ。

市民と医療者とのパートナーシップ
―患者参加によるクリティカルパス作成―

山田 雅子(やまだ まさこ) 福井県立病院副看護師長

当院では、6名の白血病患者の協力を得て、白血病患者用のクリティカルパスを作成した。パスを山道に上るイラストマップで示し、自分が今どの辺りにいるか、次にどんな治療をするのか、ある治療内容にどれ位時間がかかるのか、などが一目でわかるようになっている。作成にあたっては医療者から反対が出たり、患者から様々な意見が出て時間と労力を要したが、完成したものは、患者にも医療者にも好評を得た。

また、数年前から行っている患者と医療者の交流会では、従事者が休みを返上し、イベントを企画、実施している。日帰りバスツアーではバスガイド役をしたり、一緒にお弁当を食べながらお話をしたりもする。医療者も積極的に患者交流会に参加していかなければならないと感じている。私たちは、もっと患者さんと話をしたいと思っている。しかし、忙しくてなかなか時間がなく、時間外作業が増え、過重労働を指摘されている。

患者参加型リスクマネジメント

唐澤 秀治(からさわ ひではる) 船橋市立医療センター副院長(医療安全管理室長)

2000年に当院の脳神経外科で「患者参加型リスクマネジメント(RM)」を開始したときには、院内からは「これ以上苦情が増えたら対応できない」、マスコミからは「RMに患者・家族を参加させようというのは病院側の責任放棄、患者側に責任を押し付けるものだ」とかなり否定的な反響があった。しかし、実際に始めてみると有効性の手ごたえが感じられたため、2002年からはその仕組みを病院全体に拡大した。今、当院には、医療安全に関する585の仕組みがある。

例えば、同姓患者のまちがいを防ぐために、船橋市内に多い苗字トップ30に該当する患者さんの診察券の右下に丸いマークをつけている。

医療従事者には、患者からいくら暴力を受けても、暴言を吐かれても、「患者を訴えるつもりはない」と耐えている人がいる。がまんしたまま辞めていく人も多い。自殺を図る人もいる。

だから、「個人ではなくシステム上の問題、個人を責める気はない」というような言葉を聞くと気が楽になる。しかし、警察には「警察はシステムを捕まえることはできない。犯人を捕まえるのが仕事です」と言われる。これにはジレンマを感じている。

カテゴリ: 2006年12月13日
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