先日、本コーナーでもプログラムを紹介した、(社)日本看護協会主催のシンポジウム「安全教育は実っているか」が、平成18年11月22日(水)都内で開催された。
安全文化醸成の基礎は「教育」である。前半は、5人のシンポジストが、「教育」に携わるさまざまな立場から発表を行った。後半は、安全風土を組織で作るためにはどうしたらよいかということを中心に意見交換、質疑応答が行われた。
ここではシンポジウム前半の一部を、お伝えする。
【シンポジウム】テーマ「安全教育は実っているか」
(看護基礎教育の立場から)
名古屋大学医学部保健学科 教授 山内豊明
- 基礎力として必要なのは、四則演算、簡単な比例計算など、一つひとつは簡単なこと
- 問題は、同時進行、多重課題である、という点
- 「わかった」「納得した」だけでなく、事実を「共有した」で初めて成り立つ
- そのためにはきちんと書き表すことが大切
- 学生に分からせるには、学生の経験や知識で了解可能な例で示す
リスク・マネジメント | クライシス・マネジメント | |
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例1 | ―雨が降りそうな時にどうしますか? | ―突然雨が降ってきたらどうしますか? |
例2 | ―あなたはコンパの幹事です ―今夜の合コンでは相手の数が少なそうです ―どうしますか? |
―合コンが始まったら、相手が誰も来ていませんでした ―どうしますか? |
(新卒看護師の臨床研修制度を創設して)
市立砺波総合病院 参与、前副院長 伊藤恒子
- 看護の基礎教育はいまだに一本化されず、教育課程における卒後の力量の格差も大きい。
- 在宅看護など科目が増える一方で実習時間は1/4に減少。
- 当院では、19年度から看護師の卒後研修制度を導入することを、全国に先立って決めた。
- 制度導入に、砺波市長は初めしぶい顔だったが、院長が何度も相談に行き、最終的にGOサインが出た。
- 1年間の研修カリキュラムの前期では、手術室・ICUなど一般病棟ではあまり経験できない看護技術の習得に重点を置いている。後期では、少人数体制の夜勤中に患者にどう対応するかなど、体験を通して身につける内容とした。ただし、研修生の基礎教育課程に違いがあるため、研修内容は、受け入れ後に検討・修正が必要である。
- 自力予算では研修生の受け入れ人数にかなりの制限があり、今後の課題である。
(患者家族、事故当事者への支援を通して~研修を提供する視点から~)
医療心理学研究者 山内桂子
- 1999年からこれまでの教育→初めての考え方、知識を皆で学ぶ
- これからの教育→工夫と新しい視点が必要
- マンネリ化を防いで継続する
- 受講者の知識、経験、役割の違いによって内容や方法を工夫(体験型、IT利用、相互学習)
- 組織の一体感を強める教育は引き続き必要
- 患者・市民参加(協力)の医療安全・・・今後の課題
(病院職員への安全教育を担当する立場から)
寿泉堂綜合病院 医療安全統括リスクマネジャー 壁寸とみ子
- 安全教育を根付かせる為には職場風土づくりが不可欠。
- 看護部では平成13年度からロールプレイングや事例分析を行っている。
- 平成14年度からは看護師が中心になって、コメディカル部門へ働きかけを始めた。具体的には、事例分析、出前講座などのグループワーク研修を行った。これにより、異なる職種でもお互いに関心を持つようになり、職種間連携がスムーズになった。
- 最近では近隣医療機関と連携して「医療安全管理勉強会」(3施設)を行っている。
- 今までに、安全管理に関する施設間の意識調査、各種書類の検討などを行った。
- 当院のヒヤリハット事例から取り組み例(備品関係)
-
- 患者ベッドネーム表示の拡大
- ベッドランプ(側燈)の器具・位置変更
- トイレスペースの拡張(一部)
- 暖房ヒーター露出配管部の固定
- 超音波ネブライザー同全機種の点検、接続コードの交換
- 車椅子用点滴ガートル架台全設置
(医師への安全教育の推進者として)
名古屋第二赤十字病院 副院長 安藤恒三郎
- 当院では平成10年から、リスクマネジャー養成のためのワークショップを企画実施
- 消防訓練、防災訓練などは、たいていどこでも年に1回大がかりなものを行う。では、病棟で患者が急変したときの訓練は行われているだろうか。何か起こったときの訓練を何故しないのか。
- 当院では平成14年から、生命に関わる事故の発生直後の対処法としてシミュレーション訓練を開始。
- 院内23部署が各職種合同で毎年1回実施
- 自主的に作成したシナリオに基づき稽古を重ね、ギャラリー(職員)の前で実演
- 平成18年まで5年間継続中
- 一部の医師の意識改革は進んできている。
- ワークショップを行うと、2割は意識が変化し、6割は内容に理解を示す。しかし、残りの2割は全く変化無し。
- 医師の異動が年間30~40名あり、継続教育が困難。
- 研修医を受け入れている病院は不安との声もあるが、むしろ安全度が高いと言いたい。
- (理由)
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- 複数の医師・指導医が診療に関与→peer reviewが行われる
- 研修医に対する臨床教育→診療のスタンダードが意識される
- 指導医が研修医に教えるために学ぶ
- 指導医が研修医から学ぶこともある→医師の継続教育につながる
- 指導医が研修医に模範(最良の医師の姿)を示す→患者にとっても最良の医師
- 教育の見地からより充実した診療録が書かれる
シンポジスト
左から安藤恒三郎さん、壁寸とみ子さん、山内桂子さん、伊藤恒子さん、山内豊明さん。
コーディネーターの村田幸子さん。