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患者による薬剤のチェックで、取り違えミスを防ぐ

患者の取り違え事故を防ぐ方法として、リストバンドやバーコードで認証する取り組みをこれまでいくつか紹介してきた。今回紹介する三井記念病院(東京都千代田区、482床)の取り組みも、バーコードでチェックするという点は同じ。だが、それを行うのは医療従事者ではなく、患者だという。事故防止に患者が主体的に関わる試みを取材した。

きっかけは確認作業の限界

三井記念病院の外来化学療法室は、患者が通院して抗がん剤の治療を受ける場所だ。ここでは、患者自らがバーコードリーダー(以下、「リーダー」)で薬剤に貼付されたバーコードを認証し、自分のものであるかどうかをチェックしている。始まったのは、2003年9月からだ。

リーダーは手の中に収まる名刺大サイズ。商品名は「かくにんくん」という。使い方は簡単だ。あらかじめ患者の名前やID番号などが登録されているリーダーの先を、薬剤に張られたバーコードに向けてスイッチを押すだけ。その患者の薬剤であれば、「ピコッ」という音がする。他の患者の薬剤の場合は、「ピー、ピー」という連続した警告音が鳴る仕組みだ。リーダーは患者に1台ずつ用意され、現在、100台のリーダーが運用されている。

それにしても、なぜ認証を患者に任せるという発想に至ったのだろうか。メーカーと一緒に「かくにんくん」の開発にあたった、三井記念病院医事課の課長代理、桜井雅彦さんは次のように説明する。

「当院では2000年からインシデントレポートを提出してもらい、さまざまな事故防止策を検討してきた。患者の取り違えを防ぐために、患者の名前を確認する回数を増やしたり、患者に名前を名乗ってもらう方法なども試みてきた。だが、インシデントレポートは一向に減らなかった。これ以上、医療従事者による確認作業を増やしても限界があると考え、患者にも加わってもらおうと考えた」

以前、同院は患者にリストバンドを装着してもらう試みを取り入れた事もあるが、患者からの評判が芳しくなかったという理由もあるようだ。就寝時や入浴時であっても、リストバンドを常時身に付けていなければならないため、不快感を訴える患者が多かったという。今では手術時のみ、リストバンドを付けてもらうだけにとどめている。

だが、いざ「かくにんくん」を導入しようと桜井さんが提案した際には、「患者がリーダーを所持出来るのか」「医療機関に全てお任せの患者さんには無理」など、職員からの反発も少なくなかった。ただ院長の許可を得ていた事もあり、桜井さんは半ば強引に導入に踏み切った。

患者の評判と導入による効果

当初、「かくにんくん」は病棟の一部で運用する予定だったが、看護部長と相談し、患者の取り違えが、重大な事故につながりかねない外来化学療法室の通院患者から試みる事になった。

業務の流れはこうだ。まず、医事課の職員が患者の情報をリーダーに登録。リーダーには、患者の名前とID番号を記した名札を取り付ける。それら作業は、2人の職員でダブルチェックする。その後、バーコードシールを出力し、リーダーと一緒に薬局に届ける。薬剤師は各患者の薬剤にバーコードシールを貼付し、リーダーとともに外来化学療法室の看護師に渡す。

患者が来院すると、医事課の職員がパンフレットとリーダーの見本を見せながら、使い方を説明。その後、患者を外来化学療法室に案内し、看護師から「かくにんくん」が手渡される。患者はベッドサイドで薬剤の認証を行い、照合したら、医師が薬剤を投与する。

通院が終了すると、リーダーのデータは医事課の職員によって消去される。空のリーダーは再び、新規の患者に使われる。

気になるのは患者の評判だが、「職員と一緒にチェック出来るので楽しい、と好評です」と、桜井さんは言う。医師にお任せではなく、患者が主体的に医療に関わるきっかけになれば良いと期待する。

「かくにんくん」を導入してから、外来化学療法室において患者取り違えに関するインシデントも生じていないという。「患者から確認されているという意識を持つようになった」という看護師の声もあるように、患者にチェックされる事で医療従事者の注意力も高まっているようだ。

「人間のチェックには限界がある。ミスは決してゼロになる訳ではない。ITが得意とする部分にはそれを活用し、ミスを少しでも減らしていけるようにする事も必要ではないか」と、桜井さんは話す。いずれは病棟にも導入していきたいと考えている。

「かくにんくん」の価格は1台39,800円。商品の問い合わせ先は、エムアンドエイチ(03-5643-1881)。

バーコードリーダー「かくにんくん」。小型で軽量なため、患者がポケットなどに入れて持ち運ぶのも容易に出来るという。
バーコードリーダー「かくにんくん」。
小型で軽量なため、患者がポケットなどに入れて持ち運ぶのも容易に出来るという。
「かくにんくん」を使って、薬剤が患者のものかどうかチェックしている様子
「かくにんくん」を使って、薬剤が患者のものかどうかチェックしている様子
カテゴリ: 2005年3月15日
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