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ヒューマンエラー対策"ミニ"セミナー

2009年7月24日、ANAラーニング株式会社により主催された「ヒューマンエラー対策"ミニ"セミナー」について、読者よりレポートが届きましたので掲載します。以前掲載した「ANAグループ安全教育センターASEC」についてはこちらをご覧下さい。なおANAラーニング株式会社ではその実績を生かし、医療現場の接遇セミナーも実施しています。

はじめに

世界の商用航空機全損事故(死者を伴うことになる)は減少しており、現在は100万飛行回数当たり1件程度である。大量輸送時代となり一度の事故で多くの犠牲者が出ることになるので、改めて事故原因を調査したところ80%近くがヒューマンエラーであった。

ヒューマンエラー対策の基本的な考え方

  • ヒューマンエラーをゼロにすることはできないが、エラーの影響をコントロールすることは可能である。エラーを放置しておくと、組織の存続に係わる事件に発展する可能もある。ヒューマンエラー対策は、何よりも、頑張って働いている人を守ることにある。
  • 作業中の人的過誤により不具合が生じた場合、ヒューマンエラーと呼び、人的過誤があってもそれに早く気づき不具合を防止できたものは、ヒヤリハットと呼ばれる。
  • 1件の重大事故の影には29件の軽度の事故、更に300件のヒヤリハットがあると言われており(ハインリッヒの法則)、300件のヒヤリハットを防いでおけば、重大事故も防ぐことができる。
  • ANAでは、パイロットのECHO、客室乗務員のSTEP、整備スタッフのヒヤリ情報のヒヤリハット情報収集システムがある。非懲罰自主安全報告制度であり、エラー情報の共有化とフィードバックが主眼であり、エラーを隠す必要のない「安全風土」の醸成が重要である。
  • 事故は、一つのエラーのみで起こるわけではない。エラーチェーンのどこかを切れば事故は防げる。どこを切れば最も効果的かを良く検討すること。
エラーチェーン図

図 エラーチェーン

  • 人に係わる全ての要素で、人を取り巻く環境の中にあって、その人の思考と行動に対して何らかの影響を与えるものを「ヒューマンファクター」と呼ぶ。ヒューマンファクターを5つに分類したとき、インターフェースの不整合が事故の要因となる。中心のL(自分自身)が、周りのSHEL(M-SHEL参照)に合わせて仕事ができるような能力を付与する。周りのSHELを中心のLに合わせるように改善していくのが、マネジメントの力である。
shelモデル

図 shelモデル

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  • ヒューマンエラーは、経営層の意思決定、管理職の管理方法、現場での企画・設計などの組織エラーの上に立って現場の個人エラーが発生するという重層構造になっている。
  • 従って、誰が悪いのかなどの責任追及では改善は期待できず、人間特性を知った上で、何故起こったのか、どうすれば良いのか、どのような対策をすれば良いのかを考えていかなくてはならない。
  • 責任追及は、隠蔽体質を助長することとなる。

エラー理論

人間の限界、ヒトの陥りやすい傾向、ヒトの思考のメカニズムを理解することがエラー対策の大きな要因を占める。

  • ヒトの感覚での情報処理量は、視覚が85%、聴覚が8%と言われている。
  • 意識を集中して対象を見ることができる視野角は4度、シンボルの認識限界は60度、色の弁別限界は160度と言われている。
  • 過去の経験や知識をもとに、瞬時に認識・判断できるパターン認識機能を持っている。情報不足でもパターンで認識できるが、自分に都合の良いように補って認識・判断する傾向にあり、エラーの要因となることがある。
  • 短期記憶は、情報量が極めて少なく、持続時間も短い。リハーサルを行うことで長期保存が可能となる。
  • 長期記憶は、喪失・変形する。呼び出せなくなることがある。
  • ヒトの行動には、反射操作レベルの「スキルベースの行動」、規則レベルの「ルールベースの行動」、知識レベルの「ナレッジベースの行動」の3階層がある。ほとんどの作業は、スキルベースであり、ちょっとしたノイズでエラーに陥りやすい。パイロットはシミュレーターで身体に覚えさせるが、実際の飛行機での操作は、コパイとのチェックリスト確認により行う。
  • 意識は突然途切れる(疲労が重なると脳の防衛反応が働くことがある)、脇道にそれる、時間と共に変動する(意識が安定するのは作業を始めて1時間から3時間であり、それ以上経ったときまたは最初が危ない)、過度に緊張した後は急激に低下する。
  • エラーを防ぐ有効な方法として▽指差呼称(意識集中は大脳への刺激が重要。聴覚からの刺激及び筋肉を動かすことで大脳が活性化する)▽STOP LOOK(意識を切り替えるため、作業を一旦中断して、普段と違う状況はないか、解決すべき問題点はないか、など周りの状況を確かめる)―がある。

チームマネジメントと安全風土

チームマネジメントの目的は、個々のメンバーのリソースを効果的に活用して相乗効果を発揮させ、チームのパフォーマンスを最大限に発揮させることである。メンバー全員がリソースを十分発揮し、相互に活用し合うことで、より有効なヒューマンエラー対策が可能である。あるいは相乗効果により、エラーの影響を最小限に抑えることができる。

  • お互いの意思疎通を図り、リソースを共有するためには、コミュニケーションが重要である。コミュニケーションの質と効果は、その明瞭度(受け手に理解される度合い)により決まる。コミュニケーションの伝達度合いは、態度・見た目が55%、声の調子・大きさが38%、話の内容が7%と言われている。
  • 目的を達成するために集団に影響を与えていく活動がリーダーシップである。リーダーシップの発揮度合いは難しく、程良い権威勾配が必要。また、部下の習熟度合いによって、お互いの考えを吟味しつつ進める「協働的スタイル」、自分の考えを優先する「独断的スタイル」、お互いの考えを譲り合う「妥協的スタイル」、相手の考えに合わせる「迎合的スタイル」を使い分ける必要がある。
  • エラーが発生した場合は、原因を究明し、再発防止策を実施する。ヒヤリハット情報の共有で、未然にエラー防止策を実施する。組織運営の改善、職場環境の改善などの組織運営の上に、手順の作成・標準化・教育研修を行い、一人ひとりの行動の積み重ねで品質重視の安全風土を醸成することができる。

バイオレーション(規則違反)

日常的なバイオレーション(楽をする、面倒臭いなどによる意図的な規則違反)と状況により必要となるバイオレーションがある。

  • 作業基準やルールを何気なく無視する習慣的行動がエラーを生み出す要因を作り出している。
  • バイオレーションを導きやすい状況には▽時間的せかされ▽高すぎるワークロード▽不明瞭もしくは実態と合わないルール▽マネジメントの気配り不足▽マネジメントの不適切な管理▽マネジメント間の意思疎通不足▽マネジメントや職場がバイオレーションに寛容▽確実さ、品質、安全より、早さ・大胆さをもてはやす職場―が挙げられる。
  • バイオレーションの危険性を認識し、発生しやすい状況を減らしていく他、何故そのような規則・ルールが作られたのかを考え、振り返ることが重要。不適切であれば変えていかなければならない。

まとめ・エラー防止実践法

エラートレランス:発生したエラーを早期に見つけ出し修正する。即効性はあるが効果は一時的。

方法 内容 具体例
セルフモニター 自分で気づく 指差呼称、STOP LOOK
チームモニター 仲間が気づく ダブルチェック、報連相
警報システム 強制的に気づかせる 警報

エラーレジスタンス:エラーの発生し難い仕組みを作る。時間がかかり、努力・負担が必要だが、持続性があり、普遍的。

エラー要因 内容 具体例
L(自分自身) 教育訓練
能力向上
健康管理
技能訓練、OJT
自己啓発
生活改善、健康診断
S 規定・規則の改善 作業者中心のマニュアル
H 工具・機材の改良 エラープルーフ設計
E 環境改善良 整理整頓、騒音・振動対策
L(部下、上司) 職場風土 風通しの良い職場
エラー情報の公開・共有
安全文化の創出
  • ヒューマンエラーをゼロにすることはできないが、エラーの影響をコントロールすることは可能。
  • ヒューマンエラー対策の要点は
    ▽顧客に信頼される品質を提供する
    ▽エラーによる損失の防止
    ▽辛い思いをする仲間を出さない―ということ。
  • 一人ひとりが強い精神的スタミナを持ってヒューマンエラーコントロールを実践していく必要がある。
カテゴリ: 2009年8月20日
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