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医療安全推進者養成講座講習会(1)「医療事故に対する原因究明と再発防止に関する取り組みについて」

2008年11月9日、日本医師会館で医療安全推進者養成講座講習会が行われました。「医療事故に対する原因究明と再発防止に関する取り組みについて」(財団法人日本医療機能評価機構 医療事故防止事業部部長・産科医療補償制度運営部技監 後 信(うしろ しん))の概要を掲載いたします。


後信氏

医療事故情報収集等事業の概要

医療機能評価機構では医療事故収集等事業においてヒヤリハット事例と医療事故の2つの情報を集めています。事業の目的で最も大事なのは「医療事故の発生予防・再発防止を促進する」ことです。つまり、「○○病院が悪い、○○さんが悪い」といった、責任追及型の事業ではなく、再発防止を目指す事業であり、既に3年半の実績があります。

二度と同じことを起こさないようにしようと、3カ月に一度の報告書や年報、医療安全情報で還元する仕組みです。全てホームページで閲覧できますので、ご覧いただきたいと思います。大変厚いのでその際の報告書の見方をご説明します。「(1)医療事故収集等事業の概要」は毎回同じです。「(2)報告の現況」は3カ月ごとの集計表や図が掲載されています。傾向は3カ月ごとではあまり変わりませんが、ご自分の医療機関と比べればよろしいと思います。「(3)医療事故情報等分析作業の現況」では、例えば異物残存といったテーマごとに分析をしています。「(4)共有すべき医療事故情報」では、詳しく具体的に事例を分析しています。これを念押しするべく、後述する医療安全情報を作っています。

事故の概要を見ると、転倒転落などの「療養上の世話(34.8%)」、次に侵襲性の高い「治療・処置(29.9%)」が多いです。報告書では診療科ごとに分け、どんな治療・処置でどんな事故が多いかを掲載しています。例えば循環器内科では検査に関する事故、外科ではチューブやドレーンの管理に関する事故、整形外科では転倒や転落が、それぞれ多いといったことが載っています。

また、発生要因上位は「確認を怠った」「観察を怠った」「判断を誤った」がいつも変わりません。その次に多いのが「連携ができていなかった」「説明不足」などが挙がっています。見ていますと、とても基本的なことにも関わらず事故になっているケースが、まだたくさんあります。

テーマ分析

テーマ分析では次のようなものを取り上げています。

  1. (1)手術における異物残存
  2. (2)薬剤に関連した医療事故
  3. (3)医療機器の使用に関連した医療事故(人工呼吸器、輸液ポンプ・シリンジポンプ)
  4. (4)医療処置に関連した医療事故(グリセリン浣腸、経鼻栄養チューブ・胃瘻・腸瘻等)
  5. (5)患者取り違え、手術・処置部位に関連した医療事故
  6. (6)検査に関連した医療事故
  7. (7)小児患者の療養生活に関連した医療事故
  8. (8)リハビリテーションに関連した医療事故
  9. (9)輸血に関連した医療事故

この中から薬剤に関連した事例をご紹介します。

(「医療事故収集等事業平成19年年報」166ページより)

「薬剤量間違い」が毎年多く発生しています。インスリンなどは10倍、数十倍の間違いが起こっています。それから「薬剤間違い」、薬剤そのものの間違いです。名前が似ていたり、外観が似ていたりで、間違えています。

それから、発生段階について言うと「指示段階」に多いです。医師が指示を出したり、オーダリングシステムに入力時に間違えたりしたものが、チェックをすり抜けて患者さんに投薬される事例です。指示のあとの段階でチェック機能が働いてほしいと思います。ただ、よく事例を見ると、途中でスタッフが医師に「この量でいいのですか」「前と薬が違いますよ」といった注意喚起があっても、「それでいいに決まっているだろう」というふうに聞く耳を持たない方もいらっしゃいます。これはあってはならないことです。チーム医療なので、正しくとも間違っていてもスタッフの注意喚起にはよく応じることが大事です。

具体的な事例としては、「1.2mg」を「12mg」、つまり10倍に見誤ったものです。ダブルチェックをしていてもこういうことが起こっています。現物を見ると、「1.2mg」ではなく「12mg」にしか見えませんでした。「12mg」が多いのではないかと思いさえすれば防げたかもしれませんが、こうした化学療法に慣れていなかったということです。

化学療法でノバントロン(腫瘍用薬)1.2mg とキロサイド(腫瘍用薬)50mg の点滴の予定であった。研修医は投与量の変化に応じられるようノバントロン1V(バイアル)とオーダーした。上級医は注射伝票の「ノバントロン1V」という記載を「1.2mg」と手書きで修正を加えた。その後研修医と大学院生(小児科医師)がダブルチェックの上薬剤を混合したが2名とも「1.2mg」を「12mg」と見誤り投与した。注射伝票を確認していた看護師がプロトコールには「1.2mg」表記されているが、注射伝票に記載されている数字の小数点が不明なため、研修医に確認したところ過剰投与に気付いた。

(「医療事故収集等事業第8回報告書」61ページより)

医療安全情報

医療安全情報は病院を対象にFAXで発信しています。診療所は対象にはなっていませんが、すべてホームページで閲覧できます。(以下の図はすべて「医療安全情報」より。医療機能評価機構の当該「医療安全情報」PDFにリンクしています)

・インスリン

ラベルには「100」という数字がはっきりと書いてあります。これは濃度を示しており、つまり100単位/mlということです。1バイアル中には10cc入りますから、100単位/ml×10ccで1,000単位入っています。そのことも小さい黒い字で書いています。しかし、1バイアル中100単位と勘違いしてしまうという事例が結構たくさん発生しています。判で押した様に同じ事例です。

もう一つインスリンの事例です。そもそもインスリンの1単位は非常に少ない量です。インスリンを扱ったことがあまりない方、あるいは新人がこうした事例を多く起こしています。そもそも皮下に注射できる量は限られており、少量で効果がある薬だと考えが及べば避けることはできます。


※PDFファイルが開きます。

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・グリセリン浣腸に伴う直腸穿孔

「浣腸液で床を汚すし、トイレで浣腸してくれませんか」という患者さんの希望に看護師が配慮し、トイレで無理な姿勢で浣腸したところ直腸穿孔した事例です。人工肛門を作成することとなった事例もあり、トイレの中で立位前屈位で行った場合の穿孔事例が特に多いです。


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・入浴介助時の熱傷

昔は手で湯加減を見ていたのでしょうが、今は温度をダイヤルでセットできます。確かめずに熱湯に入浴させてしまったケースです。


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・手術部位の左右取り違え

マーキングのルールが無いところが多いです。またルールがあっても、ルール自体が不備だったり、ルールどおりに実行しなかったりしたために起きています。


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・処方表記

「セレニカR 顆粒40% 1250mg」という手書きの処方箋を出すことはありうるのですが、図の様に2通りの計算方法が考えられます。書き方のルールは全国統一されていませんので、いつでも起こりえます。

表記の仕方についてもう一つ。「リン酸コデイン 60mg 3×」と書いてあるのを見て、20mgを3回分だと理解する方が大部分だと思います。逆に3倍にして180mgにするというルールも日本にはあります。


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・湯たんぽ使用時の熱傷

湯たんぽで火傷が起きている事例です。足が自由に動かせないだとか、感覚が悪い・麻痺があるなどで熱さがわからない患者さんは要注意です。


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・伝達されなかった指示変更

口頭で伝えると指示が変更される訳ではありません。口頭・紙・コンピュータ上の指示があったり、外来用・病棟用の指示があったり、決して1系統ではありません。3系統で指示がなされていたが、1系統でしか正さず、結局抗がん剤を投与すべきでない日に投与してしまった事例です。


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医療安全情報の特徴を挙げます。

  1. (1)医療機関で実際に発生していることを元に作っています。架空の事例ではありません。
  2. (2)時に社会的に騒ぎになるような医療事故が起こっています。そのような場合には、国が通知を出すなどの対応がなされることもありますが、社会的な騒ぎにならない事例であっても重要と思われる医療事故の事例が評価機構には継続的に届いています。
  3. (3)事例紹介であって、医療者の裁量を制限する意図で行っているわけではありません。
  4. (4)1カ月に1回の頻度です。この程度の頻度なら壁に張っておけばよろしいのではないでしょうか。ときどき外来の待合室に張っていることもあるそうです。患者さんにご協力いただける部分もあります。
  5. (5)全国の約半数の病院に情報提供しています。12月までに希望を募る予定なので、提供を希望する病院が増えて欲しいと思います。

医療事故の分析例

重要なことについては是非分析していただきたいところです。回答例を報告書に掲載しています。

ある行動について、なぜそこでそんな行動をしてしまったか、根本的にこれ以上「なぜ」がない状態まで掘り下げていきます。根本原因分析(RCA)です。その根本原因に対して抜本的な解決策を作っていきます。医療機関では永いこと行われている、医療安全に適さない風習や慣行があると思います。何か事例が起こったときに客観的に見ると、古いやり方が原因だということもあるのではないでしょうか。変えられないことを変えていくきっかけになると思います。こういう分析は職種を超えてやることが大事です。いろいろな人の目で客観的に見て変えていくこともできるのではないかと思います。


医療事故の分析例1
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医療事故の分析例2
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医療安全については報道や問い合わせが続いており、依然として社会的関心が高いところです。今後、一層の内容の質の向上や効果的な医療従事者への周知などが大切です。

カテゴリ: タグ: 2008年12月12日
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