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医療現場でのMedical SAFERの活用と効果について

読者からセミナーの報告が寄せられたのでご紹介いたします。

2008年9月13日、(株)テプコシステムズ主催の「医療安全管理システム事例紹介セミナー」が行われた。その中から武蔵野赤十字病院専従リスクマネジャー・杉山良子氏の講演を報告する。

医療安全の考え方は変化している

  • 質の向上は事故の減少であり、他産業から学び、品質の向上が進められている。医療事故に対する考え方も、「誰がしたのか(責任指向・懲罰モデル)」から「なぜ起きたか、どうすれば改善できるか、対策は何か(原因指向・未然防止)」へ移行した。

    病院の損失を防ぐための訴訟対策としてのリスクマネジメント
    1999年 1月 横浜市大病院での患者取り違え手術事件
    2月 都立広尾病院でのヘパリンと消毒薬の誤投与
    予防的安全管理としてのセフティーマネジメント(patient safety)
     
    質改善とシステム改革としてのクオリティマネジメント
  • 1999年 IOMの"To err is Human"が公表された。
    「ヒトは間違える存在」には、「しかし、ミスは防ぐことができる」との後段がある。

    It may be part of human nature to err, but it is also part of human nature to create solutions, find better alternatives, and meet the challenge ahead.

    このレポートでは、年間100,000人(100K)に近い人が医療行為に関連して死亡しているとされており、100Kキャンペーンが展開された。日本でも2008年5月17日から、日本版100Kキャンペーン(医療安全全国共同行動)が展開されている。

医療安全の5つの技法

  1. 要因解析(RCA)
  2. エラー防止
    • ヒューマンエラーとは、人間特性と人間を取り巻く広義の環境の不一致。ヒューマンエラーは、原因ではなく結果である。
    • ヒトは誰でも間違える(度忘れ、見誤り、操作し間違え)し、短時間であれば、集中力でミスは防げるが、持続しない。・・・ならば、どうするか?
    • 「作業方法の標準化と教育訓練の工夫」及び「エラープルーフ化」
      ※エラープルーフ・・・標準的なヒトであれば、経験がなくとも、どのような体調や精神状態で作業してもミスをし難いように、ミスをしても大事に至らないような作業方法とすること。類例に、フェールセーフ(故障やミスの際に障害を最小限にする工夫)、フェールソフト(故障やミスの際に機能を完全停止させず、可能な部分だけを稼働させる工夫)など。
      人間信頼性工学:エラー防止への工学的アプローチ

      (「人間信頼性工学:エラー防止への工学的アプローチ」(PDF),中條 武志より抜粋)

  3. 標準化
    「決めなければいけないこと」は決める。どちらでも正しいような「決めた方が良いこと」も決める。決めたら、守る。必ず守る「規則型」とその中で比較的自由度のある「標準型」マニュアルがある
  4. 根拠に基づく改善
    問題解決にあたって、以下のPDSAサイクルを回す。
    • Plan・・・目的を明確にする、管理水準を決める、実行手順を文書化する
    • Do・・・教育・訓練の実施、実行手順通りに実行する
    • Study(Check)・・・目標を達成できたか、他の手順・作業に不具合はないか
    • Action・・・根本原因を除去する(再発防止策の実施)
  5. 危険予知
    KYT、リスク分析。

プロセスに着目する

  • 個人のエラーを誘発させない業務方法が確立していないままで、個人に注意をしても組織的な事故の減少には繋がらない。
  • 個人のエラーを誘発させない業務方法を確立した上で、遵守教育を行う。
  • 個人に着目した改善ではなく、プロセスに着目した、プロセス改善を行う。
  • インシデントレポートは、改善を行う上で重要な情報源である。
    • プロセスに注目しつつ事実が正確に把握されている必要がある。
    • ヒューマンエラーへの関心を高める。
    • 情報を共有し、他山の石とする。
    • 統計解析し、現場の弱点を知る。
    • ヒューマンエラー防止にためのポイントを知る。
    • レポート制度の目的・免罪の周知も重要。
  • プロセスコントロールとは、
    • 結果のみを追うのではなく、仕事のやり方に注目し、これを管理し、システム・やり方を向上させる。
    • 良い仕事のやり方を標準化し、育てていく。
    • 目標と実績の差異について、その要因を分析し、その要因を排除する。
  • 医療機関における効率的な検討を困難にしている要因。
    • 臨床プロセスが標準化されていない。専門化・分業化が進み、全体のプロセスを把握しづらい。
    • 失敗モード(抜け、見逃し、読み違え、予期しない反応)の概念を理化することが難しい。原因・影響・結果が混在している。
    • 代替案に対する率直さに欠ける点が見受けられ、せっかくの議論の場を逸していることがある。
    • 検討すべきエラーが多く、何が重要か絞り込むことが難しい。

分析手法としてのMedical SAFER

手順1:事象の整理 起こった事(事象)を整理し、何がどのように起こったかという事実を把握する
手順2:問題点の抽出 事象をよく理解して含まれている問題点を抽出する
手順3:背後要因の探索 なぜ、そのような問題が起きたのかという背後要因を探す
手順4:考えられる対策案の列挙 問題点やその背後要因をなくすための対策を考える
手順5:実施する対策の決定 実行可能性を基に対策案を評価し、実施する対策を選ぶ
手順6:対策の実施 誰が、いつまでに、どのようにして実施するかを決め、的確に実施されたかどうかを確認する
手順7:実施した対策の効果の評価 実施した対策に効果があったのか、あるいは新たな問題点はないかなどを評価する

Medical SAFERの特徴(河野龍太郎)

  1. 現場で実際に働いている人が使える
  2. 簡単な講義と実習で使えるようになる
  3. 「事故の構造」と「エラーの発生メカニズム」が反映されている
  4. 最後の対策の評価までの手順が準備されている
  5. 各手順においてそれぞれ使いやすいツールがある
  6. 対策案の発想手順がある
  7. 事例分析を通じての安全教育が可能となる

まとめ~安全システム構築のポイント~

  1. リーダシップを構築する
  2. システム設計に人間が持つ限界への配慮を
  3. チーム機能を強化する
  4. 不測の事態に備える
  5. 学習を支援する環境を整備する
カテゴリ: 2008年11月 6日
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