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神奈川県立病院の医療安全対策

9割が事故に至らないインシデント事例

医療安全に対する取り組みが各施設で行われるようになっているが、非常に高いレベルの安全対策を実施しているのが神奈川県の県立病院。県立病院では平成15年度からインシデント・アクシデントレポートを活用して、医療事故の未然防止に向けた対策を立案しているほか、今年3月には県病院事業庁と保健福祉部による医療事故対応マニュアルも策定した。

ささいな事例もインシデントで報告

神奈川県の県立病院における医療安全の取り組みは、インシデント・アクシデント事例の公表と各施設および県立病院全体を網羅した医療事故防止対策に大別される。

インシデント・アクシデントの定義とレベル区分は図表1の通りでインシデントは、ヒヤリ・ハット事例で結果として患者に影響を及ぼすに至らなかった事例でレベル0と1に区分される。また、アクシデントは過失の有無にかかわらず、医療にかかわる場所で医療の全過程において発生するすべての人身事故を指し、レベル2は要観察、要検査、レベル3は患者に何らかの変化が生じ、治料・処置の必要性が生じた場合、レベル4は生活に影響する高度の後遺症が残る可能性が生じた場合、レベル5は事故が死因になった事例―までの4段階に分かれる。

【図表1】
【図表1】
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17年度の全県立病院におけるインシデント・アクシデントの状況は、全体で10,905件で、前年度比20件の増加。内訳はインシデントがレベル0とレベル1を合わせて9,757件で405件の増加。アクシデントは1,148件で385件の減だった。内訳は要観察、要検査のレベル2が1,016件と410件減、治療や処置が必要なレベル3が128件で24件増。高度な後遺症が残る可能性のあるレベル4は3件で2件増、事故が死因になったレベル5は1件で1件減だった。

報告件数は前年度に比べ微増となったが、内訳を見るとアクシデントのレベル2が大きく減少し、逆にインシデントのレベル1が増加したことがわかる。

一般には報告件数が1万件を超えていることから、数値の大きさのみが取り上げられがちだが、実際には医療事故に至らないインシデント事例が大部分であることが同報告の集計からは明らかである。具体的には17年度の報告内容では全体の89.5%がインシデント事例、16年度も85.9%がインシデント事例だった。

【図表2】
【図表2】
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全体の報告件数が増加したことについて、神奈川県病院事業庁病院局・県立病院課の二見美行課長代理は「報告件数が多いことが一概に悪いとは言えないと思う。むしろ従来気がつかなかったような細かい事例まで報告するように病院関係者の意識が高まったのではないか」と分析する。

全報告件数10,905件の事象別内訳では、「薬剤」に関するものが全体の33.2%、次いで転倒・転落なども含む「療養上の場面」が30.7%、「ドレーン・チューブ類使用・管理」が16.4%―などとなっている。

また発生場所の状況では、圧倒的に「病棟」が多く77.8%、他の場所では「集中治療室」「外来」「検査室」など、いずれも一桁台にとどまった。

県立病院の医療事故防止対策

神奈川県の県立病院は、「足柄上病院」「汐見台病院」「こども医療センター」「精神医療センター芹香病院」「精神医療センターせりがや病院」「がんセンター」「循環器呼吸器病センター」「神奈川リハビリテーション病院」「七沢リハビリテーション病院脳血管センター」―の9施設。

各施設では、「医療安全会議」「リスクマネジャー会議」「安全管理研修」等を開催し、事故事例の分析などを通じた事故の再発防止や医療事故防止マニュアルの見直しなどに取り組んでいる。

各施設には院内組織としての「医療安全推進室」が設置されており、副院長が室長となり、医療安全管理者(看護師)と副総務局長(または総務部長)で構成、院内各部門との調整やインシデント・アクシデント報告の集計と改善案の作成、県立病院課との調整などを行っている。

さらに所長、院長、副院長、総務局長、看護局長、各部門長、医療安全管理者からなる「医療安全会議」を設置し医療安全管理指針の整備、医療事故の情報収集・分析・公表、医療安全対策の立案・実施、職員研修の立案・実施などを行っている。

また、各部門を代表する医療安全推進者と医療安全推進室で構成する「リスクマネジャー会議」が各部門での医療安全に関する相談・助言、他の県立病院との情報交換、職員研修の立案・実施などを担当している。なお、医療安全推進者には、診療、看護、薬剤、検査、放射線、栄養等の各部門や病棟単位の長が任命されている。

このような施設ごとの取り組みを調整し、県立病院全体としての対策を検討するのが県立病院医療安全管理者会議である。同会議は年間に4回程度開催されており、今年3月に「医療事故対応マニュアル」を作成している。

このような現場の各部門からトップまでの総合的な医療安全対策を立案し、また詳細に公表していることに関し、「ここまでやっている自治体病院は少ない」(県立病院課)という。ただ、県立9病院のうち、7病院が専門病院であることから「画一的な対策が馴染まない場合もある」(県立病院課)ために、各施設の取り組みがより重要になるのはいうまでもない。

【図表3】
【図表3】
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誠実・透明性を主眼に医療事故対応マニュアル

さて、今年3月にまとめられた医療事故対応マニュアル。これはレベル4、5に対応する医療事故発生時の対応について示したもの。またレベル3以下の事故やヒヤリ・ハット事例であっても状況に応じた適切な対応に資するよう作成された。

ここで強調されているのは、(1)過失の有無にかかわらず、患者・家族に対して誠実な行動を行うことを第一に心掛けること(2)公共的使命を担う県立病院として透明性のある対応を行うこと(3)医療事故の隠匿・秘匿につながる行為は絶対に行わないこと―の3点。患者・家族への誠実な対応は当然だが、当事者が事実を隠そうとしたり、発表を故意に制限したりすることは、むしろ無用の混乱を招くという判断がある。

対応マニュアルの内容は、事故発生時の対応として患者への応急処置をはじめ、院内緊急連絡、家族等への連絡、患者・家族等への説明、県立病院課への連絡で構成。

また、事故発生以後の対応としては、正確な記録作成、公表、家族・患者への支援、医療事故に関与した職員への支援、院内への周知、所管保健所・警察への届出、解剖の実施、再発防止策の検討と実施、事故調査委員会の設置、患者・家族等への対応、弁護士との面会―など詳細な対応が記されている。なお、この種の事故の際の公表については、「神奈川県県立病院医療事故公表基準」が制定されており、基準に基づき各病院で公表が必要と判断した段階で県立病院課と協議することになっている。

カテゴリ: 2006年7月12日
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