医薬分業の進展によって、調剤薬局で薬を受け取る機会が増えている。だが、その一方で患者に間違った薬が交付され、重篤な状態に至る事故も発生している。水野薬局(東京都文京区)では、薬の品目や量を間違えるなどの調剤ミスを防ごうと、バーコードなどを活用して成果を上げているという。その取り組みを取材した。
システム導入で「思い違い」をゼロに
「薬局における調剤ミスは、病院以上に患者に与える影響が大きい。入院中であれば看護師などが調剤ミスに気づく可能性も高いが、薬局から患者の手に間違った薬が交付されてしまうと、気づかれないまま服用され続ける危険性がある」と、水野薬局の水野善郎さんは調剤ミスが患者に与える影響の大きさを指摘する。
名称や外観の類似した数多くの薬剤の中から、いかに間違わずに薬を交付するかは薬局の課題の1つだ。病院の中には、薬効の同じ薬の種類を絞り込むことで事故防止に効果を上げているところもあるが、調剤薬局の場合はさまざまな病院の処方箋を受け付けるため、多種多様な薬剤を取り揃えておかなければならない。
水野薬局の「リバティシステム」は、そうした問題を解決するシステムとして注目される。これは同社が独自に開発した業務支援システムで、患者の薬剤投与歴などの管理をはじめ、薬剤情報提供文書や領収書の打ち出し、レセプト請求、薬剤の在庫管理などの業務を支援するものだ。
中でも99年に付加された「調剤過誤防止システム」は、調剤する薬をバーコードで照合することによって、薬剤の取り違えを防げるという。その使い方は次のようになっている。
まず、窓口で処方箋を受け付けると、薬剤師がその内容をチェックし、コンピューターに入力。その際、画面上に患者の過去の投薬歴などを呼びだし、処方内容の確認をする。
もし内容に疑問があれば、処方箋を書いた医師に疑義照会する。
処方内容のチェックが終わり、入力が済んだら、「調剤指示書」が出力される。これには薬剤名や規格、処方日数などの文字情報の他、それら情報を盛り込んだQRコードも付いている。QRコードとは、2次元バーコードの1種で、通常のバーコードに比べて大容量の情報を表示出来るものだ。
薬剤師はこのQRコードをハンディ型のQRコードリーダーに読み込ませた上で、調剤指示書を見ながら、薬剤ボックスの棚から薬を収集。その際、薬剤ボックスに貼付されたQRコードを読み取りながら作業を行う。
もし間違って他の薬剤ボックスのQRコードを読み取った場合には、警告音が鳴り、ミスを知らせてくれる。その後の作業を続けるには、QRコードリーダー上で解除手続をしないと作動しないため、警告音を無視したまま作業が続けられない仕組みとなっている。
さらに、このシステムはQRコードだけでなく、通常のバーコードも読み取れるため、箱から薬剤ボックスに薬を移し替える際の間違いをチェックする事も可能だ。
「薬の取り違えの多くは、薬剤師の思い違いによるもの。バーコードでチェックをするようになってから、それらに起因したミスはほぼゼロになっている」と、水野薬局シニア薬剤師の安部好弘さんは話す。
システムを補うミス防止の工夫
一方で、新たなミスを誘発する要因も明らかになってきたという。それはQRコードを読み取った後の、薬剤ボックスの取り違えだ。以前、水野薬局では薬剤ボックスの引き出し手前にQRコードを付けて、チェックを行っていた。
しかし、これだとチェック後に目を離した場合、間違って別の引き出しに手をかけてしまうというミスが起こった。そこで、QRコードを貼付する位置を引き出し手前から、薬剤ボックスの後ろ側に変更。引き出しを抜かないと、QRコードリーダーでチェック出来ないようにした。こうした工夫によって、薬剤ボックスの取り違えも防ぐ事が出来ているという。
水野薬局の調剤ミスを防ぐ取り組みは、これだけではない。薬袋にも独自の工夫をこらしている。
同薬局では「1薬剤1薬袋」を原則として、中身が見えやすい、ジッパー付きのビニールの薬袋を採用している。また、薬袋には薬剤名とその薬効、服用回数などを表示したシールも張り付けている。そうすることで薬をいちいち袋から取り出さなくても、中身を確認出来るという利点がある。
「患者さんの薬に対する意識を能動的にし、薬や病気に対する理解を深めてもらいたいから」と、前出の水野さんはその目的をこう話す。
だが、「1薬剤1薬袋」であるため、1人の患者に手渡す薬袋が複数になり、別の患者の薬袋が紛れ込むという危険性が起こり得る。そのため薬袋に張るシールに、独自のマークを印刷するようにした。
このマークは太陽や月、ハートなど30種類以上に上り、1人の患者の薬袋には全て同じマークが印刷されるようにした。これならば、他の患者の薬袋が紛れ込んでも一目でわかるという訳だ。
ただ、このような取り組みを駆使しても、防ぎきれないミスもある。処方箋の入力段階でのミスだ。いくらバーコードによるチェックを行ったとしても、「調剤指示書」自体が間違っていれば、気づかないまま患者に誤った薬を交付してしまう可能性がある。
この点について水野さんは、「たとえ入力ミスをしても、コンピューター画面上に患者の投薬歴や、似た名前の薬がある事、薬の危険性などが表示されるので、入力時のミスを防ぐことは可能」と、説明する。
さらに、「調剤指示書」の中から、リスクの高い薬を交付したものを薬剤師が取り出し、内容の再チェックをする仕組みも取り入れる事で、より一層ミスは防げるという。
「調剤ミスを防ぐには、システムだけでなく、それを補う工夫も必要だということ。品質管理という考え方を取り入れることも大事」と、水野さんは話す。
同社では、ISO(国際標準化機構)の品質管理方針の考え方を日常業務に取り入れ、ミス防止に向けて具体的な数値目標を掲げた活動をしているが、これはミス防止が品質管理の一環であるという考え方に基づいている。
「コストをかければかけるほど、品質が上がるのは当たり前の事。ミス防止にも相応のコストがかかるという人もいるが、薬局の報酬は限られている。その中でいかに創意工夫をこらすかが問われている」と、水野さん。
ちなみに同社の「リバティシステム」は外販しており、リース契約で1カ月あたり約7万円~8万円するという。システム設計は希望に応じて変更可能となっている。
調剤指示書のサンプル。
処方箋の内容をコンピューターに入力すると、これが出力される。
水野薬局の調剤室にある薬剤ボックスの棚。
この中から「調剤指示書」に基づいて薬を収集する。
「調剤指示書」のQRコードをQRコードリーダーで読み取った上で、
薬剤ボックスのQRコードと照合。
間違って他の薬剤ボックスのQRコードを読み取った場合には、
警告音が鳴り、ミスを知らせてくれる。
薬剤ボックスのQRコードは、
引き出しを抜かないとチェック出来ないようになっている。
水野薬局の店内。
患者のプライバシーを配慮した視野選択ガラスを採用。
薬剤師からは店内の様子が見渡せるが、
患者には隣の様子が見えないようになっている。