入院時に栄養不良になっている患者、あるいは手術などの治療後に栄養不良になる患者は少なくない。栄養不良に陥っている患者は感染や褥瘡(床ずれ)など、さまざまな合併症の発生率が高くなり、生命予後も悪いことがわかってきた。本来なら栄養補給を行うべき患者の抽出も十分に行われていないとの指摘もある。これらの課題に対し、医師や看護師、管理栄養士、薬剤師など院内横断的なチーム=NST(Nutorition Support Team)による栄養サポートが有効で、適切に行われれば、病気の治癒・回復が促進され、合併症の発生率や死亡率が低減。副次的に入院期間の短縮、医療費の削減につながる。そのようなエビデンスが内外で蓄積されてきたこともあり、2010年4月には診療報酬に新たにNST加算が認められた。2013年現在でNSTを立ち上げている医療施設は日本静脈経腸栄養学会、日本病態栄養学会の認定施設を合わせると2000施設を超える。一方で立ち上げに二の足を踏んでいる施設、あるいは立ち上げたものの運用がうまくいかず効果が上がっていないという施設も多いようだ。2003年からNSTに取組み、独自の工夫を重ねて成果を上げている名古屋記念病院に、導入・運用のコツを訊いた。
NSTの始まりと歴史
NSTの歴史は1960年代、アメリカで中心静脈栄養法TPNに代表される完全静脈栄養法が開発されたことに端を発しているとされる。この栄養療法は経口摂取ができなくなった患者に対しても有効ということで、またたく間に全米に広がった。ただ消化管を経由しない新しくかつ高度な栄養療法だったので、これに対応する専任・専従のスタッフが各施設で求められるようになり、輸液を調合する薬剤師やその管理を行う看護師、栄養士などのコメディカルスタッフによるチームがつくられるようになった。これがNSTの始まりである。
わが国のNST活動をリードしてきた藤田保健衛生大学の東口髙志・外科学・緩和医療学・代謝栄養学教授(日本静脈経腸栄養学会理事長)によると、わが国でも1970年代初頭、TPNの導入に合わせて大阪大学医学部附属病院などいくつかの病院で欧米型のNSTが立ち上がった。だが大多数の施設では、縦割りの診療科や各職種間の壁があったり、あるいは栄養療法の有用性の認識が十分でなかったりで、経費のかかる専任・専従チームの立ち上げはならなかった。立ち上がったとしても熱意のある単科のみに終わり、全科(病院全体)にNSTが広まることはなかった。
変化が現れたのは1990年代末である。前出の東口氏が、わが国の医療制度や状況に即して、専任チームをつくらない新しいNST運営システムPPM(potluck party method)を考案した。各部署から人、知恵、力を持ち寄って、それぞれが本来の業務と兼任する全科型の栄養サポートを結成し、このチームによる栄養療法を行うというものだ。
わが国では独自の方式が普及
東口氏は1998年から鈴鹿中央病院、次に尾鷲総合病院にて自ら考案したPPMを実践。冒頭で示したような効果を実証した。この運営システムは施設の規模や運営環境に合わせてⅠ~Ⅲのバージョンが考案された。その後、2000年代初頭から稼働し始めた国内のNSTはすべてがⅠ~Ⅲいずれかの方式で行われたとみられる。Ⅰ~Ⅲの方式はどの法式にせよチームのメンバーは専任ではなく兼任で栄養サポートチームに所属するところに特徴がある(現在はチーム内の専任の医師、看護師、薬剤師、管理栄養士のうち一人が専従でなければならない)。欧米のNSTがTPNの実施に活動の中心を置き発展してきたのに対し、日本型のNSTはTPNや末梢栄養法(PPN)などの経静脈栄養法にとどまらず、経腸栄養法、経口栄養法まで活動の範疇に入れて一括管理していく点も独特だ。
「日本型のNSTは患者の状態に合わせて、最適の栄養療法を選択し、一貫して管理していくということです。さらに高齢者や重症者、がんの治療を受けている患者など潜在的に栄養障害を基盤に持っている人が栄養不良に陥らないようにする予防的な栄養対策、また仮に栄養不良になったとしても早期発見し、早期に介入するという役目を持っているのも特徴です」
名古屋記念病院の武内有城副院長はわが国のNSTの特質をこのように解説する。この方式は近年、海外から注目されているという。
このような成果に着目して2001年、日本静脈経腸栄養学会は、全科型NSTの有用性を啓発し、その設立・運営を支援するNSTプロジェクトをスタートさせた。2004年には病院機能評価項目の中にNSTが取り上げられ、2006年の診療報酬改定で『栄養管理実施加算』が新設された。この加算が実質的に求めたのは全科型のNSTであり、これを契機にNSTを立ち上げる医療施設が急増。2010年にはこの流れを後押しするように診療報酬に『NST加算』が新設された。
従来の栄養サポートではなく、なぜNSTなのか
なぜ従来の医師主導の栄養サポートではなくNSTが良いのか?
医師主導の栄養療法にありがちな問題点として武内副院長は次のような側面を指摘する。
「日本の医学教育では基礎医学の生理学、生化学で栄養に触れることはありますが、単独の講義で栄養学はずっとなかった。やっと数年前から取り入れるところが出てきましたが、いまだに大多数の医師は研修時に独学で学ぶことがほとんどです。それもその場しのぎで、とりあえず輸液のオーダーができればよいという程度でしかない。特に近年はTPNや簡便なワンパック製剤の登場で、安易にTPNで対処するという傾向がありました。また保険医療が充実し、かつ医師を筆頭にどのスタッフも忙殺されているという事情を抱えた日本の病院のシステムとして、手間がかからない静脈栄養を行う方がよいというインセンティブが働き、食事の摂れる患者にまで高価なTPNを行うというケースが跋扈したように思えます」
TPNは大きなコストと厳密な管理が要求される栄養法であり、一方でカテーテル挿入箇所からの感染というリスクも併せ持つ。一時期わが国ではそれを原因とする死亡例での訴訟が増加したのも事実だ。
医師一人の知識や熱意、その指示に依存する従来の栄養サポート法は、痩せて衰弱している、あるいは問診で摂食障害があることが判明しているなど明らかに介入が必要な患者であれば抽出して対処できるが、ボーダーラインにある人を見逃したり、潜在的な栄養不良患者たとえば高齢者や持病=合併症のある人、手術・化学療法・放射線療法を受けるがん患者など、治療を転機として栄養状態が急転悪化する可能性のある人の栄養状態の再評価が遅れたりするケースが少なくなく、今も施設によってはその可能性があるという指摘もある。
ではNSTはどうなのか。
わが国でのNST設立を加速させた2006年の診療報酬改定における『栄養管理実施加算』は、それまで食事療法に過ぎなかった栄養管理を、診療報酬上で医療・治療のひとつとして初めて認めた歴史的な大改革である、と前出の東口氏は評価している。栄養管理はすべての疾患の基本治療のひとつであり、これをおろそかにするといかなる治療もその効力を発揮できず、逆に栄養障害に起因する種々の合併症を併発することすらある、という持論を持つ東口氏ならではの評価だ。
その『栄養管理実施加算』の要綱には次のような項目がある。
- 入院時の栄養評価(初期評価)
- 栄養障害例や問題症例の抽出
- 栄養状態の2次評価
- チームでの症例検討(カンファレンス)に基づく栄誉管理プランニング
- 栄養管理(栄養療法)の実施
- 栄養状態の定期的評価(再評価)
- 栄養管理プランの修正
- 患者outcomeや実施された栄養管理法(栄養療法)自体の効果に関する評価
- 退院後の栄養管理法の指導
以上は当初のNSTの活動で加算の要件として要求されたことである。すなわちNSTは入院時から退院まで、すべての患者に対し、1~9を行わなければならない、ということになる。
2010年の『NST加算』では対象患者、施設基準等の要件で一部改編があったが、チームが行うルーティンワークとして1~9は不変である。
患者のベネフィットを最優先する栄養管理が1~9のどれひとつ欠くことできない要件とするなら、それを医師一人が担当するすべての患者に対して行うのは現実的に不可能だろう。
「専門的な知識や技術を持ち寄るNSTによる栄養サポートで初めて可能になるもので、医師が主導する従来の栄養サポートよりはずっと確実性が高く、しかも質が高くなります」
実際、栄養管理計画を立てるときや計画の再検討時のミーティング(カンファ)において、たとえば経静脈栄養の薬剤の選択で薬剤師の、経口栄養の補助食品・サプリメント追加で管理栄養士の、患者の病態変化にともなう栄養状態の悪化で看護師のアドバイスを受けるといったようなことはしばしばある、と武内副院長は言う。
NST活動の流れと各スタッフの役割
NSTが行う活動は栄養スクリーニング+アセスメント、栄養管理プランニング、モニタリング+再アセスメントの3つの段階ごとの業務に大別することができる。
1段階目のスクリーニング+アセスメントは入院時に栄養サポートが必要と思われる患者を簡便な方法で評価して抽出することで、さまざまな方法がある。手法としては皮下脂肪や筋肉の損失状況などの身体所見や問診、身体測定、生化学検査などがあり、患者の年齢や状態、病態、時間軸によって、使い分けるのが一般的だ。以下、国際的によく用いられている代表的な方法を武内副院長に解説してもらった。
●SGA( Subjective Global Assessment)主観的包括的栄養評価
1987年に体系化された方法で、問診と身体所見からなる主観的な評価である。栄養不良の有無だけでなく、評価された栄養障害の重症度がAlb値をはじめとする生化学的栄養指標や栄養状態を反映しているとされる身体計測値と良好な相関を示すことが知られる。栄養評価ツールとして幅広く浸透しており、世界的に栄養評価方法の基準とされている。
●MNA(Mini Nutritional Assessment)
高齢者に推奨される栄養不良のリスク診断ツールで、特徴は患者を詳細な問診、身体診察にて身体機能、精神的・心理的状況などからも判定する点だ。まず6つのチェック項目でリスクの判定をする。カットオフが明確であるため65歳以上の高齢者における低栄養の検出精度も高いとされている。検出された者については続いて12項目の問診項目で栄養障害度を判定する。
●MUST(Malnutrition Universal Screening Tool)
英国静脈経腸栄養学会によって提唱された方法で、Body Mass Index(BMI)と体重減少率、疾患・絶食期間の3項目のみでスクリーニングを行う。これをアレンジして4項目で行うNRS2002(Nutritional Risk Screening 2002)もある。これらの方法は、客観的指標も取り入れ、スコア化により判定も容易であるが、我が国で入院時栄養スクリーニングに応用するには課題があるとされる。たとえばBMIはもともと肥満がある急性疾患や痩せ型など場合、栄養治療が必要な患者を見逃す危険性が高く、設定された数値が日本人の体形にあっているかどうかの検討が必要と思われる。
これらを含む方法で行ったスクリーニングの1次評価を参考にして、身体計測や採血データなどを用いた2次評価を行うことでアセスメントを完成させる。施設規模やNSTの活動状況にもよるが、中等度以上の栄養障害が有ると判定された患者に対して介入するのが一般的である。
NST活動の2段階目の栄養管理プランニングはスクリーニングによって抽出された患者個々の栄養必要量や投与内容、投与方法を決定することである。栄養療法は経口摂取が可能であれば経口栄養を優先、不可能であれば経腸(経管)栄養、最後に静脈栄養の順で選択するのがセオリーだ。これらのことをスタッフ全員で協議して決定する。
3段階目のモニタリングと再アセスメントは、複数のスタッフによる定期的な回診で栄養療法を行っている患者をモニタリング(監視)しつつアセスメントを繰り返して、患者の病態や栄養状態の変化に対応した栄養管理を行うことである。必要があれば栄養療法の変更など、管理プランを見直すこともある。名古屋記念病院では、入院時のスクリーニングで要介入と判定された栄養不良が疑われるすべての患者に対し、毎週1回同じ時刻に当番の管理栄養士、薬剤師、リンクナースが病棟ごとに小回診を行う。これによって問題有りと判定された患者と1次スクリーニングで抽出された患者に対しては、別途、NSTのリーダー医師、担当医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、に加えて嚥下リハビリなどを行う言語聴覚士や関連するすべての職種の代表による総回診を毎週行って、栄養管理計画書を作成し、主治医に提出・提案するようにしている。
図版4 NST回診
図版5 NSTミーティング(カンファ)
NST各スタッフの役割については、名古屋記念病院の例を以下にあげる。施設によって差異があるであろうが、ルーティンの役割としては大差がないはずだ。
スクリーニング効率化のための試み
NST活動を兼任スタッフの限られたマンパワーでコンスタントかつ効果的に行っていくには、いくつもの工夫が必要だ。名古屋記念病院では2005年から全科型の活動を開始したが、最初からスムースにいった訳ではない。まず取り組んだのは絶えず病態や栄養状態の変わる可能性のある患者の中から栄養不良の患者を抽出して、いかに効率よくNST介入を行うか、ということであった。武内副院長は当時を次のように振り返る。
「そのためには全入院患者に対し栄養アセスメントを行うことが理想ですが、当院は病床数464床の地域支援病院および愛知県がん診療拠点病院で2次救急病院でもあります。25の診療科を有し、月に平均700名以上の新規入院患者があり、平均在院日数は12日の典型的な急性期病院ですから、限られた時間とマンパワーを有効に使う必要があります。そこで栄養不良を疑う患者を、なるべく簡便に、かつ精度よく抽出する1次スクリーニングが重要と考えました」
まず代表的なSGAを試したが、うまくマッチしなかった。
「SGAは問診だけでなく身体所見も必要であり、入院時の1次栄養スクリーニングとして使用するには、当院の環境では少し煩雑であると感じました」
他の方法も一長一短であった。模索の末、入院時、全患者に対し、看護師による簡単な問診のみで抽出が可能な入院時簡易栄養スクリーニング(NSAA=Nutritional Simple Screening on Admission)を考案した。問診を行う際に、1.標準体重比が80%以下であるかをチェック。次に2.褥瘡があるか、3.食事摂取に問題があるか、4.外見上栄養不良が認められるかの3点を主観的な視点で判断。4項目のうち1項目でも該当すれば栄養不良のリスクが有りとして、NSTが介入することにした。
NSAAは独自に開発した第1次スクリーニング法であるため精度の確認が必要であったが、245例の患者にNSSAとSGAを並行して行って比較したところ、遜色のないことがわかった(注1)。
「当院のNSSAは医療者なら誰でも評価可能な4項目のチェックのみで構成され、たとえ意識障害や麻痺があってコミュニケーションが取れない患者に対しても評価することが可能です。これらの4項目はそれぞれの評価を点数化せずに「有」「無」のチェックをするだけで、入院時のNSTによるデータ入力は終了。短時間で済むので、兼任の看護師の負担を軽減することができたと思います」
注1
対象症例は245例で、平均年齢68.1歳(18~103歳)、男125例・女120例で、基礎疾患は悪性腫瘍53例、呼吸器疾患48例、循環器疾患39例、消化器疾患21例、腎臓疾患16例、脳血管疾患23例、その他45例であった。NSSAにおいて NST介入要とされた症例( 以下、介入要群と略)は61例(24.9%)、NST介入不要とされた症例(以下、介入不要群と略)は184例(75.1%)であった。さらに、静脈経腸栄養 Vol.27 No.4 2012 57(1081)SGAで全例の栄養評価を行ったところ、良好158例(64.6%)、軽度栄養不良48例(19.5%)、中等度栄養不良30例(12.2%)、高度栄養不良9例(3.7%) であった。介入要群の栄養状態は、良好6例(9.8%)、軽度栄養不良21例(34.4%)、中等度栄養不良25例(41.0%)、高度栄養不良9例(14.8%)で、介入不要群の栄養状態は、良好152例(82.6%)、軽度栄養不良27例(14.7%)、中等度栄養不良5例(2.7%)、高度栄養不良0例(0%)で、介入要群に有意に栄養不良が多く重症であった(p<0.005)。
NSTの効果
NSTの介入により、患者の栄養状態はどのように改善されるのか? 一般にアルブミン、総タンパク、リンパ球数、トランスサイレチン、トランスフェリンなどの栄養指標は向上する。特に高齢者患者、低アルブミン血症患者、悪性腫瘍のない患者では、このような栄養指標の向上が顕著なケースが多いようだ。だがそのことが疾患の回復や合併症発生率の低減とどう結びつくかを評価する研究は少なく、エビデンスは乏しいのが実情だ。海外のメタアナリシスによれば、中等度の栄養障害がある患者に対して、7~10日間のTPN実施により、術後合併症リスクが約10%軽減した、としている。
名古屋記念病院ではNST活動において1~2年以内に達成すべき短期目標として、1.入院期間の短縮、2.術後合併症の減少、3.院内感染を含めた合併症の減少など5項目を掲げ、2006年より2年ごとに評価を行っている。2010年の評価ではTPNの減少と経腸栄養の増加、経口栄養へと促す摂食機能訓練の増加、褥瘡の発生率の低下など、好評価につながる要素はあったものの、平均在院日数や予後、再入院率などについては明らかな効果は確認できなかった。同年にはNST加算が新設されるという変化があり、そこで約1年の準備期間を経て、2011年4月より管理栄養士1名を専従として、各職種の複数専任メンバーによる総回診の強化を行い、問題有りと思われる患者については主治医へ積極的に呼び掛けを行うなどのテコ入れを図った。
テコ入れの効果を見るため、その前後のNST介入患者の栄養不良の重症度、平均在院日数、自宅退院率を比較した。対象となったのは75歳以上の内科入院患者で、専従を置いてテコ入れを図る前の1年間1353例と、テコ入れ開始後の8カ月間805例だ。
「その結果、全入院患者におけるNST介入数は27.2%から35.9%になり、中等度度以上の栄養不良患者の割合は36.1%から46.0%になりました。これはより効率的に栄養不良患者に介入できるようになったことを示しています。また自宅から入院した患者が自宅へ退院した率についても有意に高くなり、入院期間については非介入症例より介入症例が2日間短くなりました」
これらのアウトカムは大腿骨頸部骨折の地域連携パスの導入や、入院から退院までのメディカルソーシャルワーカーの積極関与による取組みなどの要素が影響している可能性もあるが、NST介入による栄養管理の充実が大きい、と武内副院長は見ている。
導入時と導入後に予想されるハードルと課題
NST設立のきっかけは看護師や栄養士の働きかけによるものが多いという。名古屋記念病院の場合、武内副院長らの呼びかけでスタートしたが、医師がリードするのは意外と少ないようだ。医療費削減効果も期待できるということで、最近は病院経営者側からのトップダウン指令で設立されることも多いようだ。誰が中心となって設立を呼び掛けるにしろ、感染のリスク低減、入院期間の短縮、TPNの減少などのエビデンスをそろえて、病院経営側を説得する必要があるだろう。それらの効果は副次的に医療費削減効果があることをアピールするのも忘れないことだ。ちなみに先に紹介した鈴鹿中央病院では、NSTの設立初年度より、年間1億4000万円の増収が得られたという報告があり、関連学会をはじめ周囲を驚かせた。
わが国のNSTの草創期においては、せっかく導入に踏み切ったものの熱心な医師やスタッフのいる単科のみで終息してしまい、全科あげての導入に至るのは稀であったと聞く。その傾向は今でもあるようで、形式的には全科型のNSTをとりながら、非協力的な科があって、実質的な全科型にはほど遠いという施設も多いようだ。
名古屋記念病院のNSTチームは今では34名の規模になっているが、今に至ってもその付近の苦労はあるようだ。NSTスタッフに集まってもらい、導入がうまくいくコツを訊いたところ、「協力的な医師を見つけてつかまえること」という声が管理栄養士からあがった。
どうすればそういう医師を見つけられるか? 武内副院長が先に指摘したように 医師は栄養学を学んでいないことがほとんどであるから、総じて栄養の効果を軽んじている。その関心を呼び起こすにはそれなりのきっかけが必要だ。たとえば術後の経過が思わしくない患者がいて、摂食の意欲やそれに伴う栄養の改善に伴い、QOLも比例して改善した、というような体験をすると、にわかに摂食や栄養に興味を持つようになるのだという。
「そういった医師を1人でもつかまえると、あとは強力な応援をしてくれるようになります」とスタッフはいう。
NSTスタッフも患者の栄養について関心がある者だけとは限らない。薬剤師のスタッフはNSTに加わるまで栄養の勉強はしたことがなかったという。覚えるべき薬剤の効能や副作用がたくさんあって栄養学どころではないというのが本音であろう。その薬剤師は1年間上司について、NST回診を行うため普段は立ち入ることのない病棟に行く機会を得、やっと興味が湧いてきたそうだ。
看護師にも同じような発言をする者がいた。患者の栄養やNST活動についてさほど関心があるわけではなかったが、直属の上司がNST活動に必要な研修に参加するように促してくれたことで次第に面白くなったという。
別の看護師は、NSTの一員になって大変だったこととして、他職種とNST業務に関する認識の食い違いにしばしばとまどったという。たとえば経腸栄養という栄養法のことを話しているのに、薬剤師はどの栄養素を選ぶかに頭が行く。栄養士はそれで何キロカロリーになるかが気になり、看護師はどのようなルートがいいのかという思いが先に立ってしまう。そういったことをすり合わせるのに当初は時間がかかったそうだ。
導入に伴う以上のような課題は、施設によって現れたり現われなかったりするのだろう。その施設独得の障害やハードルが出現することもあるかもしれない。その解決は先行している施設からヒントをもらえる場合もあるだろうし、自ら工夫を重ねて解決していくしかない場合もあるだろう。
地域連携を行うことで一層の効果
NST活動は単独の施設で行うより、連携をしている医療機関や介護施設、福祉施設を巻き込んで行う方がより効果的だ、と武内副院長は言う。
仮に名古屋記念病院でNSTの介入により栄養状態が改善したとしても、退院して自宅で療養する場合、かかりつけ医や在宅医療医と患者情報を共有しあい、ケアを継続させるのだ。そこで途切れてしまったら、NST効果は名古屋記念病に限定されてしまい、ひとりよがりの活動という見方をされても仕方がない。退院後、介護施設・福祉施設に行く場合も同様だ。
このような考えから武内副院長らは地域に呼び掛けて、NST活動の普及を兼ねた勉強会を頻繁に開いている。名古屋記念病院で得られた成果や勉強会で学習したことはホームページにアップして、いつでも復習できるようになっている。
「この連携の輪を施設間から地域まで広げることでNSTの効果は安定的継続的になるはずです」
武内副院長はそう結んだ。
企画・取材:黒木要