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介護事故の実態把握が始まっている

国民生活センターによると、2000年4月に介護保険制度が始まってから、利用者や家族からの介護事故に関する相談が増えているという。現在は介護事故に関する全国的なデータはないが、都道府県単位でその実態を把握するところが現れ出した。

統一書式で介護事故の状況を把握

介護保険の指定サービス事業者は、事故が発生したら、市町村や利用者の家族、居宅介護支援事業者に連絡を行うことになっているが、都道府県への報告義務はない。しかし、厚生労働省が9月にまとめた「指定介護サービス事業者からの事故報告に関する調査」によれば、8つの県で管内市町村における事故の状況を把握している事がわかった。そのうちの1つである神奈川県では、2001年6月から統一書式を用いて、県内市町村から介護事故の報告を求めている。

きっかけは、統一した事故報告書を作成して欲しい、という市町村の要望があったから。介護保険では事業者からの事故報告を義務づけているものの、その範囲や報告方法など具体的な事は決められていないからだ。県や市町村としては、利用者から事故に関する問い合わせがあった場合の状況把握に役立てたい考えもあった。

そこで同県では、統一書式(図表1)をはじめ、事故報告の手順や報告の範囲などを定めた「介護保険事業者における事故発生時の報告取扱い要領(標準例)」を市町村と共同でまとめた。

まず、事業者から報告を受ける事故の範囲を以下の4種類に分類した。

  1. サービスの提供による利用者のケガ(6種類に分類)または死亡事故の発生
  2. 食中毒および感染症、結核の発生
  3. 職員(従業者)の法令違反・不祥事等の発生
  4. その他、報告が必要と認められる事故の発生

これらの事故が発生したら、第一報として、事業者は速やかに市町村へ電話またはファックスで報告しなければならない。報告先は、利用者の居住地である市町村と、事業所・施設が所在する市町村の2カ所。そして、事故処理の経過についても、電話またはファックスで適宜報告。ある程度、事故処理の目途がついたところで、最終的に統一書式を用いて文書で提出するという段取りだ。

最も多い事故は骨折

今年7月には、神奈川県内市町村における2001年度分(2001年4月~2002年3月)の介護事故の報告件数が公表された。それによると、事故報告の総数は1,376件。そのうち、死亡者数は46人に上った。(図表2参照)

図表2
図表2

サービスの種類別では、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の488件(35.5%)が最も多く、次に短期入所生活介護(介護老人福祉施設におけるショートステイ)の262件(19.0%)、介護老人保健施設の246件(17.9%)と続いている。(図表3参照)

図表3
図表3<

事故の種類別では、利用者のケガが1130件(82.1%)と最も多い。ケガの種類を、さらに「骨折」「打撲・捻挫・脱臼」「切傷・擦過傷」「異食・誤えん」「やけど」「その他の外傷」の6つに細分化しているが、骨折が582件とダントツに多い結果となっている。(図表2参照)

これらの結果を見て、「お年寄りは、ちょっとした事で骨折しやすいようだ。職員による見守りが大事である」と、神奈川県福祉部介護国民健康保険課の長沢恒氏は語る。

同県では、今年8月から、介護事故の事例についても集め出した(図表4参照)。

事業者に事故防止に対する意識を高めてもらい、将来的に事故予防策を検討したい考えがあるからだ。また、同部は施設や在宅サービス事業者に対して指導監査を行う部署でもあるため、集計した結果をもとに事業者に対する指導をきめ細かく出来るメリットもある。

「事故の傾向がわかるので、例えば、見守りについてどのような体制が敷かれているのかを、より具体的に確認する事が可能になる」と、長沢氏は言う。

国民生活センターが2001年8月に発行した報告書「介護サービスと介護商品にかかわる消費者相談」によると、事故の原因やどのような状況で事故が発生したのか、事業者から知らされていないケースが目立つと報告されている。その理由として、事業者が介護事故を十分に認識しておらず、事故報告の基準がないため事故として記録をせず、「原因不明のケガ」、あるいは「不可抗力で起きた事」と捉えている事業者が少なくないからだと指摘されている。

介護サービスに対する信頼を高めるには、事業者の事故に対する認識を深める事が不可欠だ。神奈川県のような取り組みが全国的に広がる事を期待したい。

図表4 骨折事故事例
サービス種類 事故の内容 再発防止に向けて
指定規準違反に係る事例
訪問入浴介護 事例1
  • 入浴後にベッドへ移動介助する際、ベッドと浴槽の間のスペースがないため、通常は行わない平行移動を行った。その際、左太股に痛みを訴えたが、湿布をして様子を見ることとした(協力医療機関へは連絡せず)。
  • 後日、左大腿骨骨折と診断された。
  • 当日の職員体制を確認したところ、事故当日のみ、看護師の配置がされていなかった。利用者からの苦情はなかったが、指定基準違反となるため、県に通報し、緊急指導が実施された。
  • テーブルや椅子などは片づけるなど、極力移動スペースを確保する。
  • 人員配置について、急遽、人員が確保できなかった場合の対応を日頃から確認しておく。
利用者が死亡した事例
通所介護 事例1
  • 車椅子に座していた利用者に機能訓練開始の呼びかけを行ったところ、突然立ち上がり、前方に転倒した。
  • 利用者は意識不明となり、救急車で病院へ搬送、診断は頚椎骨折による呼吸停止他であった。
  • 事故発生から1週間後に死亡した。
  • 機能訓練員の対応(訓練の中断はしない、中断時は安全な状態であることを確認)
  • 介護員は機能訓練員の業務状況を視野に入れた業務を遂行し、必要かつ可能な兼務は代行する。
情報提供することにより同様の事故が防止できると思われる事例
通所介護 事例1
  • 車椅子に座したまま、テーブル上の鉛筆を取ろうとして、胸を打撲。当日病院受診時には打撲であったが、後日肋骨骨折が判明。
  • 一人で過ごす方への見守りの強化。
事例2
  • 玄関ホールで転倒、車椅子を勧めるが本人は大丈夫と強く拒否。
  • 翌日病院受診したところ、右大腿骨骨折と診断された。
  • 家族からの助言が生かせなかった。連絡漏れをなくすため、口頭だけでなくメモも併用する。
  • 本人が拒否し、また疼痛の訴えが無くとも医療機関への受診を行う。
短期入所生活介護 事例1
  • 入所当日、ベッドから歩き出す際に転倒し、骨折。
  • 初めてであり、なおかつ緊急対応の利用者であったため、本人の状態把握がしっかりと出来なかった。今後、新規利用者の場合は特養1階での見守りとする。
事例2
  • 朝方、ベッドから転落しているところを発見、トイレに行く際、転落したらしい。右上腕骨骨折。
  • 短期入所の際は、床(布団)対応とする。
事例3
  • 本人は転んでいない、テーブルに足をぶつけたといっていたが、病院受診したところ左足第5指付け根を骨折していた。
  • 転倒の危険性のある利用者への見守りの強化。
事例4
  • 入浴準備のため、居室内で車椅子に乗ろうとしたところ、滑って転倒し骨折。
  • 見守りの強化
  • 利用者自身で用意してくださる場合があるが、実際は困難な利用者に対しては、早めにお風呂準備を整えるよう職員に周知徹底した。
介護老人福祉施設 事例1
  • 本人から尻もちをついたとトイレからナースコールが入る。歩行困難であったため、病院へ搬送、右大腿骨骨折と診断される。
  • 自立歩行可能な利用者であっても、転倒の危険性を本人と話し合い、転倒を未然に防ぐ。
事例2
  • トイレの故障により、水浸しになっていた床のため、利用者が滑って転倒、右足首骨折。
  • 素早く片づけ(水浸しの処置)を行うべきであった。
介護老人保健施設 事例1
  • 食堂内の洗面台へ向けて歩行中、転倒。右手首骨折。
  • ふらつきのある利用者に対しては、歩行は職員が手を引いて行う。
事例2
  • 早朝、居室内からドスンという音、居室内トイレからベッドに戻る際、転倒したとのこと。
  • 居室内での独歩する際は、コールするよう促していたが、今回コールがなかった。
  • 左大腿部頚部骨折と診断される。
  • 今後は、今まで以上に、見回りを行い、声かけにて精神面のフォローを行っていきたい。
カテゴリ: 2002年10月 3日
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