医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.154、155】

今回は、産婦人科医が業務上過失致死罪で起訴されたのに対し、過失が認められないとして無罪判決を言い渡した事例2件をご紹介します。

刑事事件は、人に刑罰という重大な不利益を課すものであることから、民事事件と異なり、検察官は、「合理的な疑いを入れる余地のない程度」まで立証しなければならないという重い立証責任を負っています。

No.154の判決では、検察官は、患者を高次の病院に転院させる義務があったのにそれを怠った点に過失があるなどと主張しましたが、裁判所は、転院したとしても患者の死亡の結果を回避できていたか合理的な疑いが残るとして無罪を言い渡しました。

No.155の判決では、検察官は、胎盤剥離を行う際に癒着胎盤であると認識した場合、直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行するのが本件当時の医学的準拠であり、被告人には胎盤剥離を中止する義務があったと主張しました。これに対し、裁判所は、刑事責任を問う前提となる医学的準拠は、「当該科目の臨床に携わる医師が、当該場面に直面した場合に、ほとんどの者がその基準に従った医療措置を講じていると言える程度の、一般性あるいは通有性を具備したものでなければならない」とした上で、検察官は、医学的準拠がこの程度に一般性や通有性を具備したものであることを証明していないとして、無罪を言い渡しました。

いずれも医療過誤事件において刑事責任を問う難しさを示した事案であり、実務の参考になると思われます。

カテゴリ: 2009年11月 4日
ページの先頭へ