今回は、単独の医療機関の過失ではなく、他の過失が競合した事案についての判決を2件ご紹介します。
No.148の事案は、交通事故と医療過誤が競合して、損害が拡大したケースです。高裁判決に加えて一審の鹿児島地裁の平成16年9月13日判決(判例時報1894号96頁)も参考にしました。この事案で若干特殊なのは、病院側を訴えたのが、交通事故被害者である患者でもなければ、交通事故の加害者である運転者でもなく、運転者と保険契約を締結していた保険会社だという点です。
商法662条に、保険金を支払った保険会社は、その支払い保険金額の限度で、保険契約者や被保険者の第三者に対する権利に代位するという規定があります。この規定に基づき、保険会社は、加害者(運転者)が共同不法行為者である病院に対して求償する権利を加害者(運転者)に代わって行使したのです。
No.149の事案は高裁判決に対して上告及び上告受理申し立てがなされましたが、上告棄却及び申し立て不受理の決定がなされたとの報告が私法判例リマークス36(2008<上>)63頁以下の評釈「患者を前医から受け継いだ後医がある場合における両医の責任関係」に記載されていますので、高裁判決の内容で確定したといえます。
前医と後医の関係について、判決文中には「後医に対して患者を移送した前医は移送を契機に患者に対する責任から解放されるのが原則であるにもかかわらず、本件においては前医の過失が後医の注意義務違反を惹起した誘因であるとして、患者の死亡との相当因果関係を肯定されるのであるから、前医の責任は後医の責任よりもかえって大きいとさえいうことができる」という趣旨の記載がある点も興味深いところです。
両判決とも実務の参考になろうかと存じます。