平成4年5月29日京都地方裁判所判決(判例時報1479号64頁)
(争点)
- ブリッジ補綴治療についての歯科医師の債務不履行の有無
(事案)
患者X(昭和27年生まれの主婦)は、F歯科医院で昭和47年に受けた被冠型ブリッジ(架工義歯)の前装歯2本が変色したため、昭和58年になってY歯科医師の経営するY歯科医院に赴いたところ、Y歯科医師から、ブリッジを替えて、セラミックによる義歯を前装しリテーナー等の金属骨格部分を貴金属で仕上げる構造のブリッジ(以下「セラミック前装鋳造冠ブリッジ」という)で新たに補綴し直すことを薦められた。Xはこれに同意し、同年6月13日、Y歯科医師からセラミック前装鋳造冠ブリッジ(以下「本件ブリッジ」という)の装着を受け、ブリッジ補綴治療が完了した。しかし、本件ブリッジは昭和60年4月30日、昭和62年9月1日、同年11月13日及び昭和63年5月26日の4回にわたって脱離した。
(損害賠償請求額)
患者の請求金額154万4520円
(内訳:ブリッジ代金相当額22万5000円+治療費16万9520円+慰謝料100万円+弁護士費用15万円)
(判決による請求認容額)
裁判所の認容額60万9520円
(内訳:ブリッジ代金の80%18万円+治療費16万9520円+慰謝料20万円+弁護士費用6万円)
(裁判所の判断)
ブリッジ補綴治療についての歯科医師の債務不履行の有無
裁判所は、まず、Y歯科医師は、支台築造やブリッジの設計・製作を適切に行い、少なくとも10年間の長期使用に耐えるようにブリッジの補綴を施すべき債務をXに対し負っていたと認定しました。
その上で、Y歯科医師につき、
(1)Xの上顎左側側切歯(左上2番)の支台築造にあたり、保持力の十分でない支台築造を行った(鋳造ポストの長さの不足が本件ブリッジの脱離の一原因であると強く推認される)
(2)Xの上顎右側中切歯(右上1番)の支台築造にあたっての築造行為が不完全なものであった(コアの軸面テーパーを大きくとりすぎたことがブリッジ脱離の一因と強く推認される)
として、Y歯科医師の債務不履行責任を認めました。
なお、本件ブリッジ代金相当額の損害額の算定にあたり、裁判所は、ブリッジは一般に少なくとも10年間の長期使用に耐えうる補綴物であり、Xは本件ブリッジ補綴治療を受けてから少なくとも3年間は咬合不全等を訴えることなく使用できていたこと等から、本件ブリッジ代金の80%の損害を被ったものと認定しました。