今回はチーム医療において医療過誤が生じた場合に、複数の医療関係者の中の誰がどのように刑事責任を負うかが問題となった事案を2件ご紹介します。
両方の判決とも、チーム医療における医師の立場、役割についてのものです。
No.82の判決は、動脈管開存症患者(当時2歳半)の動脈管を大動脈との分岐点で切断する手術において、手術に用いられた電気手術器のケーブルの誤接続によって患者に障害が生じた事件についてのものです(判決紹介上の争点は医師の刑事責任に絞っています)。紹介にあたり、判決本文中「看護婦」とある箇所は「看護師」と表記しました。事案については判例時報820号36頁及び1審判決(札幌地方裁判所昭和49年6月29日判決、判例時報750号29頁)も参考にしました。No.82の判決中には「チームワーク手術における執刀医の立場は、自らは直接作業に携わらず、専ら配下の各員に指揮命令して作業を分担・遂行させ、その状況を監督することを本旨とする純然たる統率の地位にあるものとは性質を異にする面があるといわなければならない。手術を成功させる目的で執刀医に協力補佐するためチームが組まれているものというべく、チームを指揮監督するために執刀医が置かれるものとはいえない」との判断も示されており、興味深い内容となっています。
No.83の判決は、大学附属病院の耳鼻咽喉科に所属し患者の主治医の立場にある医師や指導医の立場にある医師らが、抗がん剤の投与計画の立案を誤り、その結果として抗がん剤が過剰投与されたため患者が死亡した事件について、誤って抗がん剤を投与した主治医及び担当医療チームの指導医だけでなく、同耳鼻咽喉科の科長である医師にも業務上過失致死罪の成立を認めました。紹介にあたり、1審判決(さいたま地方裁判所平成15年3月20日判決、判例タイムズ147号306頁、大塚裕史「チーム医療と過失反論」刑事法ジャーナル2006年3号)も参考にしました。