今回は、退院後の患者の容態悪化について、退院時の医師の説明が不十分であったとして過失が認定された判決を2件ご紹介します。いずれも、原審と上訴審とで判断が異なり、医師側が逆転敗訴した事案です。
医師の患者に対する説明は
1患者の有効な承諾を得るための説明
2療養方法の指示・指導としての説明
3転医勧告としての説明
の3類型に分けることがあります(三木知博「一時外泊中の脳出血死事件」医療過誤判例百選第二版138頁)。今回の2件はこのうち2の「療養方法の指示・指導としての説明」に関するものです。
No.78の最高裁判決は、医師に過失がないとした高等裁判所判決を破棄して、事件の審理を高等裁判所に差し戻しました。差し戻された大阪高等裁判所は、平成8年12月12日に、医師に過失を認めて、損害賠償を命じる判決を言い渡しました(判例時報1603号76頁)。
最高裁の判決とあわせて、大阪高裁の差戻審判決の内容についても「補足」の欄でご紹介いたします。
No.79 の事案は、死亡した患者の父親(訴訟の途中で死亡)と弟が原告となって患者の親族としての固有の慰謝料を損害賠償請求した事案です。死亡した患者の相続人としては、患者の子供が2人いるのですが、これらの相続人は原告となっていません。逸失利益など患者に生じた損害の賠償請求権は、相続人が承継します。従って、相続人が原告となっていない本件事案では、逸失利益などが損害賠償の内訳に含まれていません。
No.79の高裁判決の事案の紹介にあたっては、一審判決も参考にしました。