医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.70、71】

今回は、患者の自殺が関連する判決を2件ご紹介します。

患者が自殺したことにより、損害が拡大あるいは発生した場合に、過失相殺の法理を類推適用して、損害賠償額を減額するという法律構成を、両判決ともとっています。ただし、類推適用する条文について、No.70の判決は、不法行為に関する民法772条2項「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」を引用し、No.71の判決は、債務不履行に関する民法418条「債務の不履行に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める」を引用しています。

No.70の判決は、医師の過失によって患者の片足切断が余儀なくされ、切断の9ヶ月後に患者が自殺した事案ですが、損害賠償の具体的項目のうち、片足切断による労働能力喪失がなければ患者が得たであろう逸失利益を算定するにあたって、同判決は、手術当時51歳の患者が67歳まで就労可能であったという前提で算定を行っており、患者が片足切断後約9ヶ月で自殺により死亡したからといって、就労可能年数を死亡時までとはしていません(ただし、死亡後は生活費の支出がかからないので、その点の控除はしています)。

このような逸失利益の考え方は、交通事故に関する平成8年4月25日最高裁判所第一小法廷判決(民集50巻5号1221頁)の、「交通事故の被害者が後遺障害により労働能力の一部を喪失した場合における逸失利益の算定に当たっては、事故後に別の原因により被害者が死亡したとしても、事故の時点で、死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではない」という判決要旨に沿っているものと思われます。

カテゴリ: 2006年5月24日
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