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No.7 「豊胸手術で胸に傷痕、切開位置を誤った」

平成15年7月30日 東京地方裁判所判決

(争点)

  1. 被告が豊胸手術をした際、切開位置を誤り、目立ちやすい傷痕を残した過失があるか
  2. 損害額

(事案)

患者(独身女性)は被告が開設するクリニックで両胸にシリコンパックを挿入する豊胸手術を受け、胸は大きくなったものの、左側の傷痕が右側の傷痕に比べ乳房に近く、腕を下ろしていても目立つ位置にあった。患者は大学病院を受診して傷痕の状態を回復するための瘢痕修正手術を受けたが、大きくは改善されなかった。

(損害賠償請求)

899万1,521円(被告クリニックの手術費用等107万1,000円+大学病院での治療費10万3,110円+慰謝料700万円+弁護士費用81万7,411円)

(判決による請求認容額)

297万4,110円(被告クリニックの手術費用等107万1,000円+大学病院での治療費10万3,110円+慰謝料150万円+弁護士費用30万円)

(裁判所の判断)

(豊胸手術の切開位置を誤った過失があるか)について

患者の主観的な願望を満たす目的の美容整形において、医師は患者の願望を満たすために細心の注意を払う義務があるとし、また、豊胸手術の場合、患者は胸を豊かにすることと同時に豊胸手術の事実を他人に知られないようにしたいという2つの願望を持つことが多く、被告のクリニックにおいてもこの2つの願望を同時に叶えることを売り物に宣伝してきたと判示。

本件においては、右側については脇の下が切開されて傷痕はほぼ腕によって隠れるのに、本件傷痕がある左側は、脇の下から乳房寄りの場所が切開されたため、腕を下ろしてもその大部分が隠れずに外見から視認できる、目立ちやすい位置に傷痕があり、袖のない服を着た場合には傷痕の存在が外から見えるという状態であるから、被告には切開位置を誤った不法行為上の注意義務違反及び診療契約上の債務不履行があると認定。被告が、多くの患者を巡回して短時間で次々と手術のための措置を行うという経済的な効率を重視した安易ともいえる方法をとっており、これらの対応が、シリコンを入れる際の切開位置を誤るという単純かつ初歩的なミスを犯す原因になったと認定。

(損害額)について

被告クリニックでの手術費用は、本件手術が切開位置を誤った過失により、目的が達成されなかったとして、その全額を被告の過失と相当因果関係ある損害として認め、大学病院での瘢痕修正手術費用も損害として認めた。

慰謝料については、傷痕が女性の胸部であること、豊胸手術の傷痕だと容易に推測できるものであること、テレビ、雑誌等を通じて自らが有能な医師であることを宣伝している被告がずさんともいえる診療行為を行って患者に衝撃を与えた責任は重いこと、被告が患者の傷痕を直接確認することもなく、医師としての責任や配慮に欠ける対応しかせず、訴訟においても患者が訴訟を提起した理由が金目当てであると供述するなど患者への配慮が全く見られないこと、一方、本件手術における過失の内容は、傷痕の位置がやや目立ちやすい位置にできているという点にとどまること等を総合考慮して、150万円を相当と認定。

カテゴリ: 2003年10月31日
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