今回は、末期医療・延命治療における医師の行為が問題となった判決を2件ご紹介します。
医療技術が発展した現代においては、治癒の見込みのない患者に対する延命医療の限度が問題とされ、患者の自己決定権・生命の質の観点から、「安楽死」「尊厳死」についても様々な議論が行われています。「わかりやすい医療裁判所処方箋 医師・看護師必読の書」(判例タイムズ社)では、安楽死を「死期の迫った患者の激しい苦痛を緩和・除去するために、その患者の意思に基づき、安らかな死を迎えさせる措置」(同書212頁)と説明し、尊厳死を「助かる見込みのない患者に対する延命治療の実施を中止し、人間としての尊厳を保ちつつ死を迎えさせること」(同書221�222頁)と説明しています。確立した定義とまではいえないでしょうが、分かり易い説明かと思います。
No.68は、いわゆる「東海大安楽死事件」として有名な刑事判決です。 この判決では、治療行為の中止及び安楽死について、次のように分類をしています。
1:治療行為の中止(消極的安楽死)
苦しむのを長引かせないため、延命治療を中止して死期を早める不作為型
2:間接的安楽死
苦痛を除去・緩和するための措置を取るが、それが同時に死を早める可能性がある治療型
3:積極的安楽死
苦痛から免れさせるため意図的積極的に死を招く措置をとること
そして、治療行為の中止が許容されるための要件としては、1:患者が治癒不可能な病気に冒され、回復の見込みがなく死が避けられない末期状態にあること、2:治療行為の中止を求める患者の意思表示が存在し、それは治療行為の中止を行う時点で存在することを挙げています。
末期医療における医師の行為が殺人罪に問われた最近の事例としては、平成17年3月25日横浜地方裁判所判決(判例タイムズ1185号114頁)があります。 気管支喘息の重積発作で低酸素性脳損傷となり昏睡状態が続いていた患者の入院先の主治医が、気道確保のために挿入されていた気管内チューブを抜管し、筋弛緩剤を静脈注射して窒息死させたとして、主治医に有罪判決(懲役3年・執行猶予5年)が下りましたが、現在控訴中であり、控訴審の判断が注目されるところです。