今回は、説明義務の違反が問題となった判決を2件ご紹介します。
医師は患者に対して症状、治療の方法・内容・危険性・代替的治療法の有無等を説明し、患者が治療法を選択するのに必要な情報を提供したうえで、当該治療について患者の同意を得る義務を負っています。
No.64の判決は、患者への説明及び患者の同意なしに行われた緊急性も乏しい手術について、その手術にかかった治療費・入通院のために依頼した家政婦の賃金や慰謝料等の賠償責任が認められました。
最近では、治療行為自体や当該治療法の選択自体に誤りがなくても、説明が不十分・不適切であったとして医師や病院の損害賠償責任が認められるケースも珍しくはありません。その場合の損害とは医師の説明義務違反と因果関係を有するものに限られます。治療法選択の機会を奪われたことに対する慰謝料だけが損害と認定された場合の慰謝料の算定については、判決によって幅があります。
No.65の判決では、患者への説明義務が尽くされないまま行われた手術から生じた損害については、医師が当該手術を選択したこと自体は誤りではなかったとして、賠償責任を否定しました。しかし、治療法を選択する機会を奪われたことで患者が被った精神的損害に対する慰謝料として1600万円の賠償責任を認めました。精神的損害に対する慰謝料としては高額といえます。
なおNo.65の判決紹介にあたっては、一審判決(東京地裁平成8年6月21日判決・判例時報1590号90頁)も参照しました。