今回は、いわゆる美容整形手術に関する判決を2件ご紹介します。
この分野は、他の医療行為に比べて手術の必要性、緊急性が少なく、審美的観点から患者が主観的に満足することが主な目的となるという特徴があります。そのため、手術の結果に患者が納得しなかった場合に、医師の説明義務違反が問われることがあり、裁判所も医師に十分な説明をする義務を負わせる傾向にあるようです。
No.62の裁判例は、説明義務違反による損害賠償の他に、患者側に治療費の支払義務が無いことの確認を求めた事案です。債務不存在の確認を求める類型は「確認の訴え」と呼ばれ、損害賠償請求のように被告に対して原告への金銭の支払いを求める類型は「給付の訴え」と呼ばれます。
また、この裁判例は、診療契約が錯誤によって無効であると判断しています。民法95条の本文は「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは無効とする」と定めています。「要素」とは「重要部分」と解釈されており、また、「合理的に判断して錯誤がなければ意思表示をしなかったであろうと認められる場合」には「要素」の錯誤があるとの判例もあります。
一方で、「動機の錯誤」が「要素の錯誤」として認められるためには、相手方にその動機が表示されるか、相手方がその動機を知っていなければならないというのが伝統的な学説・判例の考え方です。
No.62の裁判例も、錯誤についてのこのような考え方を踏まえていると思われます。
また、No.63の裁判例で、患者側は「入通院慰謝料150万円」と「本件手術結果にかかる慰謝料500万円」とを項目を分けて請求しています。そして、裁判所は、入通院慰謝料については(医師の債務不履行の内容との関係で)否定をし、(主として)説明義務違反によって患者が被った精神的苦痛に対する慰謝料として200万円を認めています。
交通事故により被害者が傷害を負った場合の慰謝料は、一般的には入通院期間を基礎とし算定され、「入通院慰謝料」という表現が用いられます(後遺症が残る場合は、後遺症の程度に応じた「後遺症慰謝料」が別途賠償項目として加わります)ので、この裁判例の患者も入通院期間を基礎して算定した慰謝料とそれ以外の慰謝料を分けて請求したものと思われます。