今回は、高齢者の転倒事故で、医院や社会福祉法人の過失責任が認められた判決を2件ご紹介します。
高齢者の転倒は、重大な結果につながりやすいことが、両判決の事案・裁判所の認容額からも伺われます。
No.56の判決で用いられている用語のうち、「無名契約」と「損益相殺」は、見慣れない用語と思われますので、簡単にご説明します。
まず、「無名契約」とは、「非典型契約」ともいい、法律で名称・内容が規定されていない契約のことを指します。これに対して、売買や賃貸借などは民法に名称・内容が規定されてますので、典型契約に分類されます。No.56の判決は、デイケアに伴う送迎が行われた事案について「診療契約と送迎契約が一体となった無名契約」を認定しました。
次に「損益相殺」とは、債務不履行や不法行為によって損害を受けた者が、損害を受けたのと同じ原因で利益も受けた場合、その利益を損害賠償額から控除することを意味します。法律に明文の規定はありませんが、解釈上認められています。
損益相殺については、受けた利益が損害の填補の性質を有するものであるかどうか、また損害のうちのどの項目から控除されるべきかなどの問題があります。No.56の判決では、妻が受けとる遺族厚生年金について、妻が相続した被害者の逸失利益部分から控除しました。そして、遺族厚生年金の合計(約150万)が妻が相続した被害者の逸失利益部分(約64万円)を上回っていましたが、差額を慰謝料などから控除することはしませんでした。
なお、No.56については判決の原文に従い、「痴呆」という用語を用いております。