今回は、「事後説明」が争点になった判決を2件ご紹介します。
病院・医師と患者との間の診療契約は、民法656条の準委任契約に該当すると解されています。準委任契約とは、「法律行為ではない事務の委託」についての契約で、委任についての規定が準用されます。
そして、民法645条は、「受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない」と規定しています。
従って、診療経過や結果について、受任者である病院・医師は委任者である患者に対して説明をする義務があります。 患者が死亡した場合に、遺族に対して病院・医師が説明義務を負うかどうかについては明確な根拠規定はありません。No.54の判決は、医師の本来の責務が診療行為であることはいうまでもないとしながらも、遺族に対する説明も付随的な義務であるとの判断を示しており、重要な判決といえます。
関連する問題として、死因の解明に関して、東京地方裁判所平成9年2月25日判決(判例時報1627号118頁)は、死因の解明を望んでいた遺族に対して、病院は病理解剖の提案その他の死因解明に必要な措置についての提案をして、それらの措置の実施を求めるかどうかを検討する機会を与える信義則上の義務を負っていたとの判断を示し、そのような提案をしなかったことで、遺族が死因を知る機会を失ったとして、病院側に慰謝料の支払いを命じました。
しかし、その控訴審である、東京高等裁判所平成10年2月25日判決(判例時報1646号64頁)は、病院側は相応の客観的な根拠に基づいて患者の死因を判断して、その判断に基づいて遺族に死因の説明を行ったから、死因に関する説明義務を怠ったとはいえず、たとえ遺族が説明に納得しなかったとしても、病理解剖の提案などをすべき信義則上の義務を負っていたとは認められないと判示して、遺族の請求を退けました。
この控訴審判決に対しては上告がされているようですので、上告審(最高裁判所)の判断が待たれます。