医療判決紹介:最新記事

選択のポイント【No.522、523】

今回は、転落防止措置に関連して病院の過失が認められた裁判例を2件ご紹介します。

No.522の事案では、遺族は、転落事故後、患者の左手に装着されていたミトンが安全ベルトに装着された状態で患者の左手から外れており、右手に装着されていた固定板と安全ベルトを繋いでいたマジックテープがリング上でベッド上に残されていたことなどからすれば、患者の両手ともマジックテープが外れることなく手から抜けたことになり、マジックテープの装着が緩かったこと、すなわち看護師らによる身体抑制が不十分であったか、あるいはそもそも全くされなかったと主張しました。

裁判所は、医師及び看護師不在の約8分間という比較的短い時間のうちに患者がベッドから転落したことからすれば、身体抑制がされず、または不十分であった可能性がないとはいえないとしつつも、担当看護師が一貫して患者に対して適切に身体抑制を実施したと証言していること、ミトンや安全ベルトを用いて適切に身体抑制を実施しても、それが解除される事態が現に存在し、かつ、上記約8分間があれば生じ得る事態であることからすれば、看護師が患者に対して身体抑制を実施し、かつ、その抑制方法も適切であったと認めるのが相当であるとして、この点に関する遺族の主張を採用しませんでした。

No.523の事案では、遺族は、身体拘束の結果肺炎が悪化し、看護師らが体位変換や痰吸引を怠ったことにより、痰を気道に詰まらせて患者が窒息死した旨主張しました。

しかし、裁判所は、肺炎の悪化は自然経過によるものであったことが否定し難く拘束の結果肺炎が悪化したとは認められないし、患者が痰を詰まらせて窒息死したことを示す証拠は存しないから、身体拘束によって患者が死亡したとはいえないと判断しました。

両事案とも実務の参考になるかと存じます。

カテゴリ: 2025年3月10日
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