医療判決紹介:最新記事

選択のポイント【No.518、519】

今回は、説明義務違反が争点となった裁判例を2件ご紹介します。

No.518の事案では、被告歯科医師は、カルテの開示を拒絶した点について、患者の威圧的言動から、カルテを開示した場合には、歯科の正常な業務に支障が出るおそれがあったこと、患者が相談したとする歯科医師の助言内容は、被告の歯科医師の治療方法を批判するものであったため、当該歯科医師と直接連絡を取り、批判の真意等を確かめる必要があったこと、患者が提出した個人情報開示請求書の記載内容に不備があったことなど、開示を不適当とする相当な理由があったと主張しました。

しかし、裁判所は、患者が威圧的な言動をしたと直ちに認められないし、仮にそのような言動があったとしても、そのことが直ちにカルテ開示を拒む正当な理由となり得るとは考え難い旨判示し、さらに、批判の真意等を確かめる必要の有無といった事情は、カルテの開示の適否とはさしたる関係がなく、そもそも被告は、個人情報開示請求書の提出の有無にかかわらず速やかにカルテの開示をすべき義務を負っていたというべきであるし、患者が提出した個人情報開示請求書の記載内容の不備は軽微なものにすぎない等と判示して、被告歯科医師が患者からのカルテ開示請求を拒否したことに、「診療情報の提供、診療記録等の開示を不適当とする相当な理由」は見当たらないと判断して、被告歯科医師の主張を採用しませんでした。

No.519の事案では、一審判決(令和元年9月20日神戸地方裁判所判決)も参考にしました。

この事案で、裁判所は、そもそも患者が、自らの疾患に対する向き合い方として、手術を受けるか、あるいは経過観察とするかについて、合理的な理解の下で自己決定をしたといえるには、それぞれの選択肢の利害得失について並列的に説明を受ければ足りるというものではなく、医学的、経験的に見て採り得ない選択肢でない限り、いずれの選択肢についてもそれぞれ選び得る合理的理由(医学的根拠)がある以上、それらの説明を受け、この理由を正しく理解した上でなければ、それぞれの選択肢を比較検討しようがなく、仮にそのような説明がないままに選択したとしても、その選択は、当該患者による合理的な理解の下での自己決定とはいえない場合があるというべきであると判示しました。

そして、医師が経過観察を選択するのが望ましいと考えていたのであるから、患者に対して、(1)手術と経過観察それぞれの利害得失を並列的に説明するだけでなく、(2)経過観察を選択するのが望ましいと考える合理的理由(医学的根拠ないし脳外科医としての経験的意見等)についても説明すべきであったが、本件において、(1)の説明がなされたとはいえても、(2)についてわかりやすく説明したとはいえないと判断しました。

両事案とも実務の参考になるかと存じます。

カテゴリ: 2025年1月10日
ページの先頭へ