医療判決紹介:最新記事

選択のポイント【No.516、517】

今回は多胎妊娠に関する裁判例を2件ご紹介します。

No.516の事案では、医師は最初のNSTの際にドップラーにより児心音を確認したと証言しており、母親の外来カルテの同日の欄には右鼠蹊部やや上方と臍部左外側に心音を確認したことを示す×印の記載が存在しました。

しかし、裁判所は、このカルテの同日の欄に、NSTにおいて約25分間にわたり二児の心拍がモニターされなかった事実についての記載がないことなどからその記載の正確性には疑問があるし、医師がドップラーのみを行い、それよりも確度の高い超音波断層法による検査を行わなかったのは不自然といわざるを得ず、母親も同日にドップラーを行った記憶がないと供述していることから、カルテの記載や医師の証言をたやすく採用できず、他に医師がドップラーを行った事実を認めるに足りる証拠はないと判断しました。

さらに、裁判所は、仮に、被告の主張するように、医師がこの時点でドップラーを行っていたとしても、なぜ、より信頼性の高い超音波断層法による検査をしなかったか疑問の残るところであり、この点においても医師に注意義務違反が認められるというべきであると判示しました。

No.517の事案では、一審判決(大阪地裁令和2年1月28日判決・医療判例解説96号(2022年2月号)113頁)も参考にしました。

同事案では、病院側は、穿刺回数は30回にも及んでいない旨主張し、執刀医師は20回程度であった旨供述しましたが、裁判所は、手術後に撮影された母体の腹部の写真からして穿刺回数が30回程度に及んでいたことは明らかであるとして、病院側の主張を採用しませんでした。

また、人工流産に至った直接の原因は、その頃に発症していた絨毛膜羊膜炎により前期破水(羊水漏出)となり、胎児の発育が望めなくなったことによるものであるところ、患者側は、羊水減少の原因として、多数回の経腹による子宮穿刺から生じた羊膜損傷に起因する羊水漏出や、2度の減胎手術直後からの炎症反応が継続して膣炎及び子宮内感染症に至った旨主張しました。

しかし、裁判所は、羊水が少ないことや羊水の漏出が認められたのは、2度目の減胎手術から50日以上経過していることなど、また、減胎手術後の炎症反応は、減胎手術に伴い生じる通常の範囲内であり、いったん治まっていたところ、その後に膣炎が原因となって絨毛膜羊膜炎の発症に至ったと考えたとしても何ら不自然・不合理ではないとして、患者側の主張を採用しませんでした。

両事案とも実務の参考になるかと存じます。

カテゴリ: 2024年12月10日
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