医療判決紹介:最新記事

選択のポイント【No.512、513】

今回は、気管挿管に関連して医師の過失が認められた裁判例を2件ご紹介します。

No.512の紹介にあたっては、一審(平成28年3月29日神戸地裁判決・出典ウエストロー・ジャパン)も参考にしました。

No.512の事案では、因果関係も争点となり、病院側は医師の善管注意義務違反と患者の重篤な後遺障害の発生との間には因果関係が認められないと主張しました。

しかし、控訴審裁判所は、病院側は「体内の総酸素量が消費し尽くされる約4分までの間に心肺蘇生を開始しなければ重篤な後遺障害を残すと考えるのが医学的常識である」と主張するが、動脈血中の酸素が消費し尽くされた時点で直ちに脳に重篤な後遺障害が発生するというのは、脳内の動脈血中の酸素が消費し尽くされたとしても脳に重篤な後遺障害が発生するまでには一定の時間的間隔があることが前提となっている鑑定意見書の知見とは異なることや、医師が抜管に際し、事前に気道閉塞発症の危険や再挿管の不奏功に備えて輪状甲状膜切開を施術するための準備を整えておけば、1度目の再挿管が不奏功となった10時35分の時点で、外科的気道確保の措置をとることを決定し、遅くとも10時40分までに気道確保の措置をとることで、◇は心停止に陥ることなく、重篤な後遺障害も残らなかったといえること、仮に2度目の挿管を試みたことが相当であったとしても、それが不奏功となった10時37分の時点で、速やかに外科的気道確保の措置をとることを決定し、遅くとも10時42分までに気道確保の措置をとることで10時41分の心停止から6分未満、しかもCPRの開始が心停止後4~5分以内となり得るから、◇には重篤な後遺障害が残らなかった可能性が高かったといえるとして、一審判決と同様、因果関係を肯定しました。

No.513の紹介にあたっては、一審(令和元年5月23日東京地裁判決・判例時報2568号61頁)も参考にしました。

No.513の事案では、裁判所は、医学文献等によると心停止の時間が5分間程度以上継続した場合には脳が不可逆的な損傷を受ける可能性が相当に高いものと認められる一方で、本件再挿管後の確認義務が履行された場合において想定される心停止の継続時間は約9分間であって、上記の5分間程度を大幅に超えるものとまではいえないところ、心停止時間が11分間及び13分間であってもその後に意識清明となった症例も少数ながら一定数見られ、そのような例外が生じ得る時間の分布等につき、臨床的に神経障害を残さずに軽快あるいは社会復帰をすることができる心肺停止時間は15分未満と考えられるとする研究報告や、蘇生後MRIを施行された28例のうち、予後が良好(ただし、後遺症残存例を含む。)であった7例の平均推定心停止時間は15.7±7.8分であったとする研究報告等に照らせば、本件再挿管後の確認義務が履行された場合には、本件患者が本件遷延性意識障害に至らなかった高度の蓋然性までは認め難いものの、本件患者が本件遷延性意識障害に至らなかった相当程度の可能性があったことは認められると判示して、病院側に、本件患者が本件遷延性意識障害に至らなかった相当程度の可能性を侵害されたことによって被った損害である慰謝料600万円の支払を命じました。

両事案とも実務の参考になるかと存じます。

カテゴリ: 2024年10月10日
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