医療判決紹介:最新記事

選択のポイント【No.510、511】

今回は、出生後間もない患児への対応に関して病院側に損害賠償が認められた裁判例を2件ご紹介します。

No.510の事案では、医師の過失が認められましたが、他方で、裁判所は、もともと新生児の敗血症や髄膜炎の予後は著しく不良であるうえ、原告患者の場合にはこれに脳膿瘍や脊髄炎を合併するという通常とは異なる経過を辿り、必ずしもその合併の時期があきらかでないから、被告の責任の範囲に属さないと解すべきこの事情も加わって、本件後遺症が重篤化したことも認められるから、損害の衡平な負担の原則に基づき、この点を考慮すると、被告は、本件後遺症により原告患者が被った損害のうち、その3分の2について責任を負うと解するのが相当である」と判断しました。

No.511の事案では、産婦人科診療ガイドライン産科編2017(以下「本件ガイドライン」という。)においては、「吸引分娩中に以下のいずれかになっても児が娩出しない場合は、鉗子分娩あるいは帝王切開術を行う」とし、そのうちの1つとして「総牽引回数(滑脱回数も含める)が5回」が挙げられているところ、医師はソフトカップで1回、その後ハードカップで5回の吸引を行っているので、原告らは5回を超える吸引を行わない注意義務違反があった旨の主張も行いました。

この点につき、裁判所は、本件ガイドラインにおいては「吸引分娩を行った場合の総牽引の制限時間や回数、滑脱の許容範囲についてのエビデンスは明確ではない」としつつ、「十分な吸引にもかかわらず胎児下降が認められない場合、あるいは滑脱を繰り返す場合には吸引分娩に固執せず、鉗子適位なら鉗子分娩、または帝王切開に切り替えることを推奨した」としており、また、「児頭の下降があり5回以内で娩出可能と判断して継続した結果、吸引・鉗子分娩が5回を越えた場合には、施行時の状況について診療録へ詳細に記載する」とされていることからすると、本件ガイドラインは、吸引分娩の回数を必ず5回までとしなければならないとするものとはいえないと判示しました。その上で、本件吸引分娩では、1回目ではソフトカップでの吸引がかからず滑脱したが、その後、ハードカップでの5回の吸引で娩出できており、総牽引時間は12分と適切な時間内であったこと(鑑定書)に照らすと、本件吸引分娩は、十分な吸引にもかかわらず胎児下降が認められない場合や滑脱を繰り返す場合であったとはいえないから、5回を超えることが直ちに不適切であるとはいい難いとし、鑑定の結果によれば、平成29年当時、事情や条件によっては、吸引分娩の回数が合計6回はやむを得ないとの認識であり、本件吸引分娩の回数は不適切とはいえないとされている(鑑定書)ことを指摘して、吸引分娩回数についての医師の注意義務違反を否定しました。

両事案とも実務に参考になるかと存じます。

カテゴリ: 2024年9月10日
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