甲府地方裁判所 平成6年6月3日判決(判例タイムズ1035号37頁)
(争点)
- 判決理由の「罪となるべき事実」に示された、A医師の注意義務と過失
- 量刑(禁錮10月、執行猶予2年)の理由
(事案)
被告人A医師は、Y県立中央病院の研修医として、平成4年4月8日午後1時30分頃、患者V(当時58歳の女性)に対し、脊髄造影検査を実施するにあたり、看護師から差し出された尿路血管造影剤であるウログラフィン約10ccを、脊髄造影剤であるイソビストと誤診してVの脊髄腔に注入した。このため、同日午後6時30分ころ、Vは呼吸不全に基づく二次性ショックにより死亡した。
(裁判所の判断)
判決理由の「罪となるべき事実」に示された、A医師の注意義務と過失
注意義務:造影剤を的確に選定してVの生命身体に対する危険を未然に防止すべき業務上の注意義務
過失:上記注意義務を怠り、漫然と看護師が差し出した薬液を脊髄造影剤であるイソビストと誤診してVに注入した過失
量刑の理由
判決はA医師に不利な事情として
(1)人の死亡という重大な結果を発生させた
(2)研修医であろうと、研修場所になれない時期であろうと、人の生命・身体を扱う医師としては当然なすべきである初歩的注意義務を怠った過失
を挙げました。
その一方で、A医師に有利な事情として
(3)本件については他の偶然も重なった
(4)被害者の遺族との間に示談が成立していること
(5)A医師が十分反省して、再度かような過失を犯さないことを約束し、自己の従来からの夢であり、医師を選んだ動機でもある病で苦しむ人のために全力を挙げ、医師として大成することを誓っていること
を考慮して禁錮10ヶ月、執行猶予2年という結論としました。