医療判決紹介:最新記事

選択のポイント【No.508、509】

今回は同一患者に対して複数回実施された手術に関して医師の過失(注意義務違反)が認められた裁判例を2件ご紹介します。

No.508の事案では、医師の過失と患者の死亡との因果関係も争点となりました。

裁判所は、第一次手術後に本件穿孔が発生しなければ腸内容物の漏出に伴う細菌の腹腔内への侵入による汎発性腹膜炎及び麻痺性腸閉塞が惹き起こされることはなく、腹膜炎及び麻痺性腸閉塞の影響下にある腸管について小範囲での再切除・再吻合術を実施すると再縫合不全を惹き起こす蓋然性が高いこと、再縫合不全があれば腸内容物が再度流出しドレナージのみによりこれを体外に排出して再吻合部の限局性腹膜炎の継続・悪化を抑制することができなくなる危険性が高いこと、縫合不全発生下で経口摂取を継続すれば腸内容物が飛躍的に増加するために縫合不全部からの腸内容物の流出に伴う細菌の腹腔内への侵入も著しく増加してドレナージではこれを体外に排出できなくなるとともに縫合不全部周辺に腸内容物の貯溜腔が形成されて限局性腹膜炎が悪化する蓋然性が増大すること及び限局性腹膜炎が悪化すると循環器等を媒介として細菌感染が多臓器に拡大し多臓器不全に発展して救命できなくなる蓋然性が高いことを認定しました。そして、以上にもかかわらず、被告医師が第一次手術時に手技上の過誤により本件穿孔を生ぜしめ、第二次手術として結腸側及び空腸側を各々2センチメートルずつのみ再切除したうえ再吻合し、かつ、水分ないし流動食の経口摂取を継続したために吻合部周辺の腹膜炎を維持ないし悪化させ続けたこと及び患者が多臓器不全により死亡したことが認められることに基づけば、被告医師の注意義務違反と患者が多臓器不全を原因として死亡したことの間には相当因果関係があると判断しました。

No.509の事案では、第1回手術の適応や操作の過誤についても争点となりました。しかし、裁判所は、第1回手術の適応については、証拠上、患者の第1回手術前の病態の原因は、腰椎椎間板ヘルニアによると認定し、そうであるならば、ファセトラミネクトミー(ラブ法に比較するとはるかに難しく、危険も伴う手術であり、当時あまり行われないものであった。)が唯一の適応かどうか異論はあるものの、この術式を含めて手術の適応はあると認め、第1回手術の適応自体を否定しませんでした。

また、患者の馬尾の癒着の原因は第1回手術による神経の刺激にあるというべきであるが、第1回手術もある程度神経を刺激することは避け難いものである上、手術直後にいったん症状が改善していることからすると、この刺激がそれほど強いものであったとはいえないと判断し、第1回手術の操作の過誤によって馬尾の癒着を生じさせたものとは断定しがたいと判示して、第1回手術の操作過誤も認定しませんでした。

両事案とも実務の参考になるかと存じます。

カテゴリ: 2024年8月 9日
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