今回は、麻酔のミスについて、医師の過失が認められた事案を2件ご紹介します。
No.498の事案では、過失について病院側は争わず、損害額等が争点となりました。
そして、重度の後遺障害を負ったロシア国籍女性の将来介護費の算定にあたり、原告側は、「寿命は、生活の本拠における食料、気候、医療水準等の生活環境が主要な要素となって決まるから、22歳で本邦に上陸後、日本で生活していた原告については日本人の平均寿命(86歳)を用いるのが合理的である。」と主張し、被告側は、「原告はロシア人であるから、将来介護費の算定においては、ロシア人の平均寿命である71.9歳を前提として計算すべきである。」と主張しました。
裁判所は、被告の主張につき、原告の身上等に照らし、採用できないとして、原告の主張する86歳まで存命すると判断して、将来介護費の算定をしました。
No.499の事案では、救命救護に関する過失も争点となりました。
裁判所は、患者が局所麻酔薬投与後約15分で既に眠気を生じており、車いすでの移動が相当と判断される状態であったところ、眠気は局所麻酔中毒の初期症状の可能性があるのであるから、既にこの段階で酸素飽和度などを含めた全身状態の確認等がされるべきであり、呼吸の維持や酸素投与等を含めた処置も検討の余地があったといえ、その後も継続して傾眠傾向が見受けられ、意識レベルの低下等を来していったというのであるから、こうした対応の必要性は経時的に高まっていったものと認められると指摘しました。
そして、救急搬送の要請や、バッグバルブマスクの使用等による換気、点滴による補液を早期に行うことで、患者が呼吸停止、心停止に至らなかった可能性は高かったと推認されるとし、被告医師には、救命の実行の点においても過失があったと十分に認め得るといえると判示しました。
両事案とも実務の参考になるかと存じます。