医療判決紹介:最新記事

選択のポイント【No.496、497】

今回は、医師の説明義務違反が認められた判決を2件ご紹介いたします。

No.496の事案では、病院側は、本件手術が患者の病態に対し、唯一最後の治療方法で、速やかに行う必要性と緊急性があった旨強調しましたが、裁判所は、唯一最後の治療方法であるからといって説明義務が軽減ないし免除される理由とはなり得ないし、患者の同意が不要とされる緊急事態を認めるに足る証拠はないと判示して、病院側の主張を採用しませんでした。

また、患者の昭和51年9月25日における右眼視力につき、病院側から証拠提出された診療録には0.06と記載されていましたが、証拠保全により収集された診療録には0.08と記載されているので、病院側から証拠提出された診療録の記載は後日改ざんされたものと窺われる旨判示しました。

No.497の事案では、裁判所は、医師の説明義務違反により、患者が、動脈瘤が存在しないことを前提として、狭心症の確定診断のためだけに心臓カテーテル検査を受けるかどうかを決める自己決定権を侵害されたものと認定しました。

そして、(1)心臓カテーテル検査は、心臓カテーテル治療と比較すれば低リスクであるとしても、脳梗塞や冠動脈の入口の傷害による心臓停止等の合併症が発症する可能性があり、合併症の発症により死亡や緊急手術に至ることがあるという重大な危険があるというべきものであって、患者の自己決定権の侵害の程度が大きいというべきであること、(2)心臓カテーテル検査が前記(1)のとおり重大な危険があるものであるところ、被告らの主張によれば心臓カテーテル検査よりも低侵襲である心臓核医学検査が存在することや、被告らの主張によっても強く狭心症を疑うべき状態であったとは認められないこと等に照らせば、患者は、説明義務違反の不法行為がなく、狭心症の確定診断のためだけに心臓カテーテル検査を行うと知っていれば、患者の主張するとおり、同意しなかった可能性が高く、その場合、心臓カテーテル検査費用や、12月24日以降の入院費用を負担する必要がなかった可能性が高いこと、(3)患者が、総腸骨動脈瘤が認められないことが判明した同月23日以降退院に至るまで、総腸骨動脈瘤があるかもしれないという本来感じる必要のなかった不安を感じていたことなど、本件における事情を総合考慮すると、患者の精神的苦痛を慰謝するに足る金額は30万円を相当と判断しました。

両事案の間には約40年の経過があり、比較すると、手術の説明に関する運用の変化もみてとれます。実務の参考になるかと存じます。

カテゴリ: 2024年2月 9日
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