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No.492「注腸造影検査の際に、国立病院の看護師により肛門に挿入すべきカテーテルを誤って膣に挿入され、膣にバリウムが注入される。国立病院に慰謝料の支払を命じた地裁判決」

東京地方裁判所平成14年2月20日 第一法規法情報総合データベース

(争点)

慰謝料額

*以下、原告を◇、被告を△と表記する。

(事案)

平成11年3月24日、◇(昭和12年生まれの女性・夫とともに飲食店経営)は交通事故により右大腿骨頚部骨折の傷害を負って、Q総合病院に入院し、同月29日、国である△との間で診療契約を締結して、△の設置する病院(以下、「△病院」という。)に転院した。

◇は、平成11年4月1日、△病院の整形外科で右大腿骨頚部骨折に対する手術を受け、以後、△病院において入院加療を受けた。

◇は、△病院に入院中、便秘を繰り返すなど胃腸の不調が続いたので、△病院の消化器内科で受診したところ、医師から注腸造影検査(肛門からバルーンカテーテルで造影剤のバリウムを腸内に注入して、エックス線撮影を行う検査)を受けることを勧められた。そこで、◇は、退院前に、△病院の放射線科で注腸造影検査を受けることとなった。

◇は、平成11年8月12日、△病院の放射線科で注腸造影検査を受けた。

N看護師は、午前10時20分ころ、バルーンカテーテルを◇の肛門に挿入・固定しようとしたが、誤ってこれを◇の膣に挿入・固定してしまった。O技師は、バリウムの注入を開始したが、エックス線透視下でバリウムが大腸内に入っていることを確認できなかったため、バリウムの注入を中止して、バルーンカテーテルの挿入・固定状況を確認したところ、バリウムが漏れており、バルーンカテーテルが肛門ではなく、膣に挿入・固定されて、バリウムが膣に注入されていることが発見された。

N看護師が◇を清拭し、更衣をさせた上、再びバルーンカテーテルを◇の肛門に挿入・固定しようとしたが、再び誤ってこれを◇の膣に挿入・固定してしまった。O技師とP技師は、バリウムの注入を開始したが、今回もエックス線透視下で大腸内への注入を確認できなかったので、注入を中止して挿入・固定状況を確認したところ、再びバリウムが漏れ出しており、バルーンカテーテルが膣に挿入・固定されて、バリウムが膣に注入されていることが確認された(以上のN看護師による2回のバルーンカテーテルの挿入の誤りと、その結果、バリウムが膣に注入されたことを併せて「本件事故」という。)。

その後、N看護師がもう一度◇を清拭し、更衣をさせて、注腸造影検査は続行され、午前11時5分ころに終了した。

◇は、平成11年8月19日、△病院を退院した。

そこで、◇は、精神的苦痛を被ったと主張し、△に対して、不法行為または診療契約の債務不履行に基づく損害賠償請求をした。

(損害賠償請求)

請求額:
220万円
(内訳:慰謝料200万円+弁護士費用20万円)

(裁判所の認容額)

認容額:
110万円
(内訳:慰謝料100万円+弁護士費用10万円)

(裁判所の判断)

慰謝料額

前提として、裁判所は、本件事故についてN看護師に注意義務違反があったことは、△も認めるところであり、過失による不法行為が成立し、N看護師の使用者である△は、本件事故により◇が被った損害を賠償する義務があると判断しました。

その上で、裁判所は、本件事故は、N看護師が連続して2回、バルーンカテーテルの挿入・固定の位置を誤ったことにより、注入されるべきではない膣にバリウムが注入されたというものであり、看護師であれば、少し注意すれば避けられたと考えられる過誤であり、特に2回目は、再び誤ることがないように、慎重に挿入・固定をすべきであったと指摘しました。

そして、◇がこのような過誤を同じ検査中に連続して2回受けたことと、その過誤によってバリウムを注入された部位が膣であることを併せて考えると、◇が本件事故によって大きな精神的苦痛を受けたことは、容易に推察することができると判示しました。

膣にバリウムを注入することが医学的に有害であるという見解は、証拠によっても見当たらず、また、◇が△病院を退院後、平成11年9月11日に医師の診察を受けた際、膣内に約1ミリメートル大の小粒状の白色物質が数個認められているが、他の証拠と対照すると、この白色物質をもってバリウムが残留していたものと認めることはできないと判示しました。

しかし、予定された検査部位以外の場所に異物を注入されたことによって◇が不安に思う気持ちは、理解できないものではないとしました。

他方、証拠によれば、本件事故の後、△病院は、◇に対し、8月12日の検査終了後には産婦人科の医師が直ちに診察と膣洗浄を行い、当日午後には医師が本件事故の経緯を説明した上、本件事故が過誤であることを認めて謝罪し、翌13日には泌尿器科で診察するとともに、産婦人科で2度目、3度目の診察と膣洗浄を行い、8月18日には医師が腹部の症状について説明するとともに、膣内のバリウム残存の有無もエックス線撮影で確認すれば分かることを伝え、退院当日の8月19日には骨盤を中心にエックス線撮影をした後、医師が注腸検査の結果に異常はなかったことと、膣にバリウムが入ったことも心配しなくてよいことを説明していることが認められるとしました。

△病院のこのような対応は、起こってしまった本件事故に対するものとして、適切なものであったということができると判示しました。

そして、裁判所は、本件事故による◇の精神的苦痛に対する慰謝料は、100万円を認めるのが相当であるとしました。

以上から、裁判所は、上記(裁判所の認容額)の範囲で◇の請求を認め、その後判決は確定しました。

カテゴリ: 2023年12月 8日
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