今回は、誤挿入につき、病院側の責任が認められた裁判例を2件ご紹介します。
No.492の事案では、患者側は、本件事故による恐怖や不安によって苦しみ続け、その影響で体調不良が続き、いまだ居酒屋の仕事に復帰できない状況が続いていると主張しましたが、裁判所は、事故の態様や、事故後の病院の対応を考慮すれば、仮にそのようなことがあったとしても、本件事故との相当因果関係を認めるには足りないというべきであると判示して、この点についての患者側の主張を採用しませんでした。
No.493の事案では、病院側は、患者に挿入した経鼻チューブ(本件チューブ)につき、金属線(スタイレット)とともに挿入している上、留置時に胃部気泡音や胃内容物の確認をしたと主張し、経鼻チューブが他院に救急搬送される際の体位変化によって頸部でねじれた可能性があるとも主張しました。
しかし、裁判所は、スタイレット付きの状態であっても経鼻チューブが湾曲するものであること、本件チューブは患者が険しい表情をし、激しく体を動かす中、身体を押さえつけて挿入されたものであること、本件チューブがスタイレット付きで留置され、留置後にこれを抜去する方法が採られたことを考慮しても、当該事情は、本件チューブが咽頭部でトグロを巻く状態で留置された旨認定を左右するに足るものとはいえないし、看護記録には、本件チューブが留置された日の午後6時以外の注入時や本件チューブの留置時に気泡音の確認をした旨の記載は見当たらないし、本件チューブを介しての胃内容物確認(Phテスト)については、実施された旨の記載は全くないし、気泡音の確認のみでは誤挿入に気付かないことがあるとの医学的知見があると指摘して、病院側の主張を採用しませんでした。
両事案とも実務の参考になるかと存じます。