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No.49「心臓手術を受けた後、MRSA感染症で患者が死亡。病院の責任を認める判決」

前橋地方裁判所高崎支部 平成13年3月22日判決(判例タイムズ1120号246頁)

(争点)

  1. MRSA感染に対する検査治療上のY医師の過失

(事案)

昭和56年7月9日生まれの男子Aは、生まれつき心房中隔欠損症であったため、平成6年2月1日、G大学付属病院において、手術を受け、その後も心筋症あるいは心内膜炎との診断を受け、引き続き同病院において、治療を受けていた。

Aは、平成7年9月ころ、Y医師が経営するY病院に転医したが、Y病院では、僧帽弁閉鎖不全症と診断され、その治療として、僧帽弁を人工弁に置換する人工弁置換手術を勧められた。Aは、Y病院において、人工弁置換手術を受けることとし、同8年9月19日、手術のための各種検査を受けた後、同月24日、S病院に入院した(310号室)。

同月25日、Aは、Y医師の執刀で、人工弁置換手術(以下「第1回手術」という。)を受け、手術後、集中治療室(以下「ICU」という。)に入室した。

同月26日、Aは、ICUから310号病室に移動したが、その後、痛み、発熱が続いた。

同月28日、Aの心のうドレインから、白色混濁の物質(以下「本件白濁物」という。)が検出された。

Y医師は、遅くとも同月末日ころには、Aについて、MRSA感染を含む細菌感染の可能性を疑った。また、同じく遅くとも同年10月5日までに、Aの両親に対し、AがMRSA感染症を発症した、と説明した。

Y医師は10月5日に菌培養同定検査の結果を踏まえて、同日以降、Aにバンコマイシンを投与した。

同月26日午後2時8分、Aは、MRSA感染症を原因とする低心拍出量症候群で死亡した。

Aが、Y病院において手術を受け、死亡したころ、Y病院に入院し、手術を受けた入院患者ら4名が、MRSAに感染し、死亡したり、重篤な状態に陥ったりした。

(損害賠償請求額)

患者遺族の請求額 1億0094万3870円(内訳:逸失利益4394万3870円+慰謝料5000万円+弁護士費用700万円)

(判決による請求認容額)

7594万3870円(内訳:逸失利益4394万3870円+慰謝料2500万円+弁護士費用700万円)

(裁判所の判断)

MRSA感染に対する検査治療上のY医師の過失について

裁判所は、まず平成8年9月28日の時点では、Y病院において、A以外の3名の患者についてのMRSA感染症発症が明確となっていて、薬剤感受性検査結果によれば、特に2名については菌の同一性が疑われる状況であったと認定しました。その上で、そのような状況の下、同日、本件白濁物の出現などから、AについてMRSAを含む感染症発症が明確になった以上、Y医師としては、それを前提とした治療行為を行うべき注意義務があったというべきであると判示しました。

そして、MRSAには早期の対処が必要であり、治療が遅れれば深刻な事態を引き起こす可能性が高いこと、起炎菌がMRSAである場合、それに対して効果が認められ、治療薬として使用されるべきは、バンコマイシンであることなどから、Y病院において、複数の患者がMRSA感染症を発症し、バンコマイシンの投与を受けるなか、Aについて、MRSAを含む感染症発症が明確になった以上、Y医師としては、直ちに、MRSAを念頭に置いて、適切な治療薬、特に、バンコマイシンの投与を行う必要があったにもかかわらず、Y医師が10月5日まで、バンコマイシンの投与を行っておらず、この遅れは、重大であるとして、Y医師の過失を認定しました。

カテゴリ: 2005年6月21日
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