医療判決紹介:最新記事

選択のポイント【No.476、477】

今回は、検査における医師の義務違反が認められた裁判例を2件ご紹介します。

No.476の事案で、裁判所は、危険発生を予見したり、結果を回避することが必ずしも確実、容易ではなく、通常期待される問診や観察義務を尽くしたとしても、その予見や結果の回避には困難を伴う本件のような場合にあっては、医師としては、極めて慎重に、問診、観察義務を尽くすべきことに加えて、被検者に対する説明義務を尽くし、検査を受けることについての被検者の同意を得ることによって初めて結果発生についての責任を免れることができるものと解すべきであって、実施の必要性や緊急性が必ずしも高くない検査にあっては、医師の説明に基づく被検者の同意の重要性は決して軽視し得るものではないと思料すると判示しました。

この点につき、病院側は、極めて低い確率のリスクについては、説明することによりいたずらに患者を不安に陥らせるため、説明する必要がない旨を主張しました。

しかし、裁判所は、被検者を不安に陥らせないために医師が採るべき措置は、検査の実施や前投薬の投与により生じうる危険の内容を告知しないことではなく、被検者に対し、発生しうる危険の内容を告知したうえで、さらに、危険の発生する頻度や、医師が問診や観察によって可能な限り危険の発生を回避する方法を検討したことを具体的かつ詳細に説明することであり、医師がこのように説明することにより、被検者が当該検査の受診や前投薬の投与を許諾するか否かを選択するなど、被検者の自由意思を尊重することができるのであるとして、病院側の主張を採用しませんでした。

No.477の事案では、病院側は、エコーガイド下での肝生検で、患者の肺を誤穿刺するに至ったのは、5回目の穿刺において医師ないし臨床検査技師が二度にわたって息を止めるように指示したにもかかわらず、患者が深く息を吸って肺が下方に移動したからである旨主張しました。

しかし、裁判所は、そもそも、5回目の穿刺時に患者が指示に反して吸気したことが誤穿刺の原因として認識ないし検討された旨は、病院の医療記録中には存在せず、臨床検査技師の証言内容が変遷していること、医師の証言が極めて曖昧であること、看護師がそのような出来事の記憶はない旨証言していることを指摘し、さらに、穿刺針が肝被膜の直前まで到達していたのだとすれば、穿刺針の発射と同時に患者が息を吸ったとしても、肺が、穿刺針を押しのけるのではなく、肺実質の採取可能な穿刺針の手前の位置まで下がったとは容易に考え難いと判示するなどして、病院側の主張を認めませんでした。

両事案とも実務の参考になるかと存じます。

カテゴリ: 2023年4月 7日
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