神戸地方裁判所尼崎支部 昭和49年6月21日判決 判例時報753号111頁
(争点)
麻酔担当医の過失
*以下、患者をA、被告人を△と表記する。
(事案)
△は、昭和39年に医師免許を取得し、昭和44年2月から市立病院(以下、「△病院」という。)において外科医として勤務していた。
昭和48年2月28日、△病院に入院中のA(事件当時51歳の男性)に十二指腸潰瘍の手術(以下、「本件手術」という。)が行われた。執刀医は△病院外科部長であり、△はAの全身麻酔を担当することになった。
本件手術にさきだち、医師の介助に従事している看護師であるBは、同日午前11時頃から手術室において麻酔の準備をしていた。
Bは同室に設置された循環式麻酔器に酸素ボンベと笑気(液化亜酸化窒素)ボンベの耐圧ゴム管を接続していた。しかし、酸素ボンベの耐圧ゴム管を麻酔器の酸素用流量計口金に、笑気ボンベの耐圧ゴム管を麻酔器の笑気用流量計口金に接続しなくてはならないところ、Bは、耐圧ゴム管と各口金とを互いに誤接続した。
同日午後1時すぎ頃から、△は、麻酔担当医として、Aに麻酔器を使用して、麻酔の導入を始めた。このとき、△は、接続状況を点検しなかった。
△は、誤接続に気づかないまま笑気ボンベの耐圧ゴム管を接続した麻酔器の酸素用流量計バルブを開き、Aに対して、毎分約5リットルの笑気を約16分間吸入させた。
Aは、無酸素症により意識喪失が生じ、昭和49年1月19日に、無酸素症による意識喪失を起因とする肺水腫肺炎および心不全により死亡した。
(裁判所の判断)
麻酔担当医の過失
この点について、裁判所は、B看護師には、循環式麻酔器に酸素ボンベと笑気ボンベとの耐圧ゴム管をそれぞれ接続するにあたり、互いに誤って接続させると患者に当初から笑気を吸入させ酸素欠乏を来すなどの危険を惹起するおそれがあるので、これを正しく接続して事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、漫然右耐圧ゴム管と各口金とを互いに誤接続したまま、これを麻酔導入の用に供した過失があり、この過失と、△が、麻酔担当医として、あらかじめ前記接続状況を点検して、その安全を確認したうえこれを使用し、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、上記誤接続が生じているにもかかわらず、誤りはないものと軽信し、その点検および安全確認をせず、誤接続に気付かないまま笑気ボンベの耐圧ゴム管を接続した麻酔器の酸素用流量計バルブを開き、Aに対して、毎分約5リットルの笑気を約16分間吸入させた過失とが競合して、Aに無酸素症による意識喪失を生じさせ、死亡に至らせたものと判断しました。
以上より、裁判所は、△に対して禁固6ヶ月執行猶予1年の有罪判決を言渡し、同判決はその後確定しました。