今回は、麻酔薬の投与後に患者が死亡し、注射や麻酔管理における医師の過失が認定された地裁判決を2件ご紹介いたします。
No.458の事案では、患者が意識消失、呼吸停止直後の低酸素血症、心循環機能低下に対する救命措置上の過失も争点となりました。
この点につき、裁判所は、(1)医師がエピネフリンを投与しなかったこと、(2)アンビューバッグによる人工呼吸では、肺の中に十分には空気が入っていなかったにもかかわらず、口対口人口呼吸など低酸素血症を防止するための他にとりうる措置を試みなかったこと、(3)医師が電話で他院内科に緊急搬入依頼をしていた5分ないし10分の間、看護師一人のみが救命措置に従事することとなり、心マッサージか人工呼吸のいずれかが中断したことが認定でき、医師の経営する医院が人的物的設備の十分でない個人病院であることを考慮しても、医師には取りうる救命措置を十分に行わなかった過失があったといわざるを得ないと判示しました。
No.459の事案では、過失と死亡との因果関係も争点となりました。
この点につき、裁判所は、本件患児については、本件検査後に低酸素脳症を発症していなければ、双方向グレン手術の適応が認められる状態であった高度の蓋然性が認められるところ、実際には小児科担当医らの過失によって双方向グレン手術を受ける機会を逸し、低酸素脳症についての治療やリハビリを受けなければならなくなり、その間にBTシャント閉塞が生じて死亡したと判示し、小児科担当医らの過失がなければ、双方向グレン手術の適応が認められ、その後のフォンタン手術に到達し、短期的・中期的な予後は良好であった高度の蓋然性が認められるとして、過失と死亡との間の相当因果関係を認めました。
両事案とも実務の参考になるかと存じます。