今回は陣痛誘発剤・陣痛促進剤の投与後に出産した妊婦が大量出血によって死亡したことについて医師の過失が認められた裁判例を2件ご紹介します。
No.452の事案では、患者遺族は転送義務違反も主張しました。
しかし、裁判所は転送時期としては再出血後で一応の出血軽減の時点以降、血液の届く以前の時点(午後4時40分ころから午後5時ころまでの間)しかなく、その時点で搬送が可能であったことを認めるに足りる証拠はないことや、患者の容態が急激に悪化し、被告医師が自ら鋭意手当を講ずるべく輸血用の保存血液を注文するとともに他の医師の応援を求めていたのであり、転送を考えつかなかったとしても責められるべきではないと判示して転送義務違反は認めませんでした。
No.453の事案では、陣痛促進剤を投与した産婦人科医師は、患者の大量出血の原因は転送後の大学病院における手術ミス(子宮動脈の集束結紮の滑脱あるいは集束漏れ)による可能性が高く、膣動脈損傷によるものではない旨主張しました。
しかし、裁判所は
- (1)
- 子宮動脈の結紮ミスであれば大量の造影剤流出が予想されるが、写真上極めて微量の造影剤しか流出しておらず非常に細い血管の損傷すなわち膣動脈の損傷の可能性の方が高いこと
- (2)
- もし大学病院における手術の際のミスであればこの時点から出血量が急激に増加すると考えられるが、産婦人科医院にいるときから大学病院で第3回手術を受けるまでの間の患者の出血のスピードがほぼ一定であること
等から大学病院における手術ミスによる大量出血との主張を採用しませんでした。
両事案とも実務の参考になるかと存じます。