今回はX線(レントゲン)検査について読影した医師の過失の有無や損害が争点となった裁判例を2件ご紹介します
No.450の事案では、第二次判定医が「要経過観察1年後」と診断した根拠の一つとして、「陰影が石灰化による像であろうと考えたが、写真撮影の限界もあるので断定を避けた」との主張がされましたが、裁判所はこの点について、問題陰影が助軟骨部の石灰化によるものかどうかは、間接撮影写真の精度に照らせば直ちに断定するのは困難であり、その確認のためにも、精密検査受診の指示を出すべきであったと考えられるとして、第二次判定医の過失を認定しました。
No.451の事案では、患者(51歳の女性)側は人工股関節の耐用年数は15年であるとして、平均余命までの間に2回の再置換手術が必要であると主張し、医師側は、近年の人工股関節の材料や器具の性能の著しい向上を理由に患者が将来再置換手術を受ける高度の蓋然性はない旨主張しました。裁判所は、再置換術の必要性に言及した人工股関節置換手術を実施した病院の説明書及び人工股関節の部品に係る添付文書の各記載や、20年以上の長期予後を具体的に認めるに足りる証拠がないことなどから、30年後に1回再置換手術をするものとして、損害額を算定しました。
また、後遺障害慰謝料について、医師側は人工股関節置換手術の機能的な予後は良く、人工股関節の挿入自体をもって、下肢関節機能に係る後遺障害として評価すべきものではない旨主張しました。
しかし、裁判所は、現在も、人工股関節には脱臼のリスクがあり、術後は股関節の深い屈曲が制限され、長距離の走行ないし歩行をする競技、平泳ぎといった股関節の深い屈曲を伴う競技について一定程度制限ないし禁止されるほか、その余のスポーツや長距離歩行について人工股関節の耐用性に悪影響を及ぼす可能性が指摘されていることや、30年後までには再置換手術の必要になること、将来的に、人工股関節の摩耗等によって緩みが生じるなどして機能が低下していることなどの事情を考慮すると、自賠法施行令別表第2の等級10級10号の「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」に該当するとの認定判断を左右するもではないと判示しました。
両事案とも実務の参考になるかと存じます。