今回は医師の説明義務違反が認められた判決を2件ご紹介します。
No.446の事案紹介にあたっては、一審判決(仙台地裁昭和61年4月10日判決・判例タイムズ616号122頁)も参照しました。
No.446の事案では、裁判所は重大な危険性を伴う手術における医師の説明義務について次のように述べました。
「とりわけ当該手術が重大な危険性を伴うものである場合には、専門的見地から、可能な限りその危険性のみならず、その発生頻度を具体的に患者に説明した上で、患者の自己決定に委ねる義務があるというべきである。そうすれば、この説明を受けた患者は、その時期に当該手術を受けるか否かを決断し、手術を受けるにしても発生するかもしれない不幸な結果について或程度の覚悟を決め、場合によっては別の医療機関で更に検査、診察を受けて手術の適応等について慎重に診断してもらい、その結果によっては同じ目的の手術を受けるにしても転院して他の医師により、更には他の方法によることを選択するという機会を得ることになるのである。この説明なしになされた承諾も、その効力としては、その説明があったとしたら手術を承諾しなかったであろうと考えられる特段の事情がない限り有効と解すべきである。しかしながら、その説明があっても承諾したであろうと認められない限り、医師は患者の自己決定の機会を不当に奪ったことになり、これによって患者の被った損害を賠償すべき責任があるものというべきである。」
No.447の事案では、説明義務違反による損害について、裁判所は、次のように述べて、300万円の慰謝料が相当であると判示しました。
「患者が本件手術を受けなかった場合に相当期間生命を維持できたという可能性は低く、どれくらいの期間生命を維持できたかを認めるに足りる証拠はないから、本件手術について患者が死亡したことに基づく損害を術前の説明義務違反の不法行為によって被った損害と認めることはできない。」
「しかしながら、患者は本件手術を受けなければ、いずれ胆管炎を繰り返し、敗血症や癌によって死亡することになったとしても、当面は生存することができた可能性があるから、主治医が(癌の告知を受けていない患者にかわり)説明を受けるべき立場にある妻に対し、手術を行う場合と行わない場合の両方の場合の治療方法の内容及び必要性、発生が予想される危険等につき十分な説明を行わなかったために、妻が手術の危険性や予後の状態を十分に把握し、自らの権利と責任において、夫である患者の疾患についての治療を、ひいては患者の今後の人生のあり方を決定する機会を奪われた結果、患者自身も今後の人生のあり方を決定する機会を奪われたことになり、これによって患者の被った精神的損害は重大である」
両事案とも実務の参考になろうかと存じます。