今回は、薬剤の投与に関連して、医師の過失が認められた事案を2件ご紹介いたします。
No.442の判例紹介にあたり、一審判決(広島地裁平成2年10月9日判決・判例タイムズ750号221頁)も参考にしました。
No.442の事案では、一審判決と控訴審判決とで、過失の内容についての裁判所の判断が変わりました。一審判決は、患者が他の病院に緊急入院した原因がボルタレン及びバカシルの服用にあるという事実を主治医が患者から引き出せなかったことにつき、問診に不適切な点があり、主治医に問診義務違反があると判断しました。
しかし、控訴審判決は、患者は他の病院に緊急入院した原因となった発作が薬物によるものであることを他院の医師から告げられておらず、発作が薬物によるものであったことは全く知らなかったものと推認されるとして、主治医の問診義務違反は否定しました。
No.443の事案で、裁判所は、大学病院で薬剤を投与したのが経験の乏しい研修医であり、患者に転倒等の重大事故が起きないよう努力したことが窺われ、勤務時間経過後も患者のせん妄状態への対処に当たっていた研修医個人を責めることにはちゅうちょするところがあると判示し、夜間時間帯に回復室に不穏になりつつある患者がいるのに、これに対応する医師が経験の乏しい研修医1名しかいなかったことや、大規模病院であるのに、看護師が多忙または人数不足であったこと、深夜における当直医不在の事情も指摘しました。
裁判所は、しかし、体制上の不備による潜在的リスクが現に発現してしまった本件のような極めて不幸な事例では、このような体制上の不備によるリスクを被害者側に負わせることはできないのであり、仮に体制上の不備等があっても、担当医師に結果回避可能性がある限りは、注意義務違反を否定することはできないと判示しました。
また、患者は我が国有数の大病院の入院患者として診療を受けていた以上、その診療には当該病院の医療水準に合わせた注意義務が求められるのであり、たまたま研修医が直接の担当であったからといって、その注意義務が軽減されるということはできないと判示して、病院側の責任を認めました。
両事案とも実務の参考になるかと存じます。