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No.44「市立病院での双子の分娩で、第二子が重度の仮死・無酸素脳症で出生し、その後死亡。医師に人工破膜の処置上の過失を認め、市と医師に損害賠償を命じる地裁判決」

名古屋地方裁判所 平成12年7月3日判決(判例時報1738号88頁)

(争点)

  1. 医師の過失の有無
  2. 因果関係

(事案)

Aは、平成2年11月5日、妊娠していることが判明し、以後定期的に、S病院の診察を受けていたところ、その過程で双胎であると診断された上、平成3年5月22日の定期診察において妊娠中毒症であると診断された。双胎かつ妊娠中毒症であることから、S病院医師はAに対し、Y市民病院で診察及び治療を受けることを勧め、N市民病院を紹介した。

Aは、5月23日、N市民病院産婦人科部長のD医師の診察を受け、妊娠中毒症の治療のため入院するよう指示され、同日、N市民病院に入院するとともに、同病院で分娩することとなった。

6月9日午前1時20分ころ、看護師が内診した時には、既に子宮口が3、4センチメートル開大し、破水していたため、Aは陣痛室に移動した。同日の当直医であったY医師は、看護師からこの旨を伝えられ、同日午前1時35分ころ、Aを診察して破水を確認し、D医師に指示を仰いだところ、D医師は経膣分娩の予定であるから経過観察のままでよいとの指示を与えたため、以後、経過観察がされた。

Aは、同日午前7時40分ころ子宮口が開大したため、同8時15分ころに分娩室に搬送された。

Aの分娩はY医師が担当し、Aは、同日午前11時00分ころ、第一子(男児、体重2810グラム)を経膣分娩より娩出した。 その後の同日午前11時5分ころ、Y医師が第二子について人工破膜したところ、臍帯が脱出し、第二子であるJの胎は横位であった。Y医師は、内回転術を試行し、胎位の正常化を試みたが、できなかった。

Y医師と応援の医師が執刀することとなり、同日午後0時18分ころにJが娩出された。

しかし、Jに臍帯脱出が生じたことにより、血流が著しく悪くなった結果、酸素供給が不十分となり、Jは重度の仮死・無酸素脳症の状態で出生した。

Jは出生した平成3年6月9日午後3時にN市民病院からH市民病院に転送され、その後、自宅で療養していたところ、同年11月28日、誤嚥による呼吸不全により死亡した。

(損害賠償請求額)

(死亡した子の両親)の請求額 合計4013万1430円
 内訳:逸失利益1913万1430円+慰謝料1800万円+葬儀費用100万円+弁護士費用200万円

(判決による請求認容額)

合計3653万1430円
 内訳:逸失利益1913万1430円+慰謝料1500万円+葬儀費用100万円+弁護士費用140万円

(裁判所の判断)

医師の過失の有無

(1)裁判所は、まず、双胎の分娩では、医師に第一子娩出後、第二子の胎位を確認する義務があるとしたうえで、Y医師が内診によって横位でないことを確認しているからこの点についての過失は無いと認定しました。

(2)次に、第二子の分娩において胎児の先進部が骨盤腔に進入・固定していない状態での人工破膜は、臍帯脱出を起こす可能性が高く避けなければらないから、人工破膜に当たっては、胎児の先進部が骨盤腔内に固定・陥入する操作を行った上で、先進部が骨盤腔から挙上することを防ぐ処置を十分に行う義務があると判示しました。

その上で、本件においてY医師は、人工破膜の際に基本的操作を確実に行わなかったため、児頭が浮上して羊水の流出とともに胎児が横位になったものと考えることが最も合理的であると判示し、Y医師は第二子の人工破膜を行う処置を適切に行ったとはいえないとして、Y医師の過失を認定しました。またN市についても、使用者責任に基づく損害賠償責任を認めました(Y医師とN市の連帯責任)。

因果関係

原告は、Jの直接の死因は誤嚥による呼吸不全であるが、誤嚥はJが重度の仮死・無酸素脳症の状態で出生したため、自力でミルクを飲むことができなかったことが原因であり、Jが重度の仮死・無酸素脳症で出生したのは臍帯脱出が生じて酸素不十分の状態におかれたためであるとして、Y医師らの過失とJの死亡との間に因果関係があると主張しました。

そして、裁判所も、Jが重症仮死状態で出生した原因は、Y医師の人工破膜の処置の不備により臍帯脱出が生じたことにあること等か ら、Y医師の過失とJの死亡との間の相当因果関係を認定しました。

カテゴリ: 2005年4月25日
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