今回は手術における医師手技等が争点となった裁判例を2件ご紹介します。
No.436の事案では、病院側は、骨折部の骨接合手術(本件手術)と患者の左尺骨神経の断裂との間には因果関係がない旨主張しました。しかし、裁判所は、患者の左尺骨神経麻痺は手術後、知覚脱失となるほどに増悪し、その後の転院後間もなく行われた感染症に対する手術の際、尺骨神経の断裂が確認されていること、執刀医が患者の左尺骨神経を発見・確認することなく本件手術を施行したことなどを考慮すると、本件手術により尺骨神経が切断された可能性が強く、そうでなくとも、少なくとも尺骨神経に生じていた既存の損傷が増悪・拡大し、ひいては術後断裂に至ったものと認めることができると判示し、更に、尺骨神経支配領域における麻痺が術後増悪したことからすると本件手術と最終的に確認された患者の左尺骨神経断裂との因果関係を否定することは困難であるとして、病院側の主張を採用しませんでした。
No.437の事案の紹介にあたっては、一審判決(水戸地裁平成28年3月25日判決・医療判例解説67号94頁掲載)及び最高裁決定(最高裁第一小法廷平成29年2月2日決定・ウエストロー・ジャパン掲載)も参考にしています。
同事案では、患者側は、病院医師らが手術記録の改変、原本破棄、リハビリテーション実施計画書の加筆と隠匿、入院カルテに対する加筆行為を指摘し、このこと自体が異常な事態であり、術中の手技ミスを裏付けるものであると主張しました。
しかし、裁判所は、そのような行為が存在したことは否定できないが、その内容は、事実認定を誤らせるような改ざんと評価できるようなものではなく、そのことが好ましいことであったかどうかはともかく、医師らなりの理由に基づく加筆などであって、これによって事実認定を誤ることに結びつくようなことは認められないから、ここから直ちに医師らの過失の存在を認めることはできない旨判示し、この点に関する患者側の主張を採用しませんでした。
両事案とも実務の参考になろうかと存じます。