今回は、医師が診断を誤り、患者が死亡した事案を2件ご紹介いたします。
No.434の事案では、医師側は、患者が転院する以前に、前医において急性膵炎を疑診(又は診断)することが可能であり、患者の急性膵炎は前医において診断し、治療すべきであったにもかかわらず、前医は急性膵炎を全く疑っておらず、その責任は重大であり、後医である医師に過失があるとしても、患者の死亡に対する起因力は3割とするのが相当である旨主張しました。
しかし、裁判所は、仮に前医にも過失があり損害賠償責任があるとしても、認定事実に照らすと、前医と後医である被告は民法719条に基づく共同不法行為責任を負い、前医と被告の各損害賠償債務は不真正連帯債務として併存すると解されるのであって、各損害賠償債務が割合的に分割されるものと解すべきではないと判示して、医師側の主張を採用しませんでした。
No.435の事案では、病院側は、患者の死亡原因が低酸素血症による心不全(心筋障害)及び循環器障害とは考えられないとして、その理由の一つとして、全身が同一程度の低酸素血症にさらされると、一番はじめに現れるのは脳障害であるところ、患者は午後1時50分に心障害がはじめて出現し、その2時間5分後である午後3時55分に眼球上転、頭をふるわせるなどの脳障害が生じていると主張しました。
しかし、裁判所は、病院側が主張する、眼球上転、頭をふるわせるなどの症状の原因は、脳障害に限られるものではないし、他に患者において、脳障害よりも心障害が先行して生じていたことをうかがわせる証拠はないから、上記主張は前提となる事実が認められず、採用できないと判示ました。
両事案とも実務の参考になるかと存じます。