今回は、歯科医師の責任が認められた裁判例を2件ご紹介します。
No.432の事案では、死亡した女児の慰謝料(1000万円)の算定に関して、裁判所は、「およそ死に至るとは夢想だにしない歯科治療の場で、付き添って来ていた母親からドア越しでは声もかけて貰えずに生命を絶たれ、しかも、抜歯の際に生じうる窒息死の危険性及びその防止策についてほとんど思い至らなかったとしかいいようのないような態様の注意義務違反が歯科医師に存したため、突如として一方的に将来への希望を奪われ他界しなければならなかったことを考えると、その精神的苦痛は甚大である」と判示しました。
No.433の事案では、裁判所は、「本件治療により自然歯として保存できたはずの健全な9本の歯を抜髄され、奥歯を除く上下合計23本の歯については歯冠のかなりの部分を削合されて失ったのであり、その肉体的侵襲の程度は決して小さいとはいえない。もっとも、患者は治療内容については理解していたこと、本件治療により結果的には下顎中切歯の隙間や開咬が改善され、審美的な面では従前よりも優れた状態の人工歯を得たこと、機能的な面においても人工歯が自然歯と比較して著しく劣るものとは認められないことなどの事情を総合考慮すれば精神的苦痛に対する慰謝料は、30万円と評価するのが相当である」と判示しました。
両事案とも実務の参考になるかと存じます。