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No.428 「帝王切開により娩出された新生児が常位胎盤早期剥離による出生時仮死から低酸素性虚血性脳症により死亡。病院の助産師らに分娩監視義務違反の過失を認めた地裁判決」

大阪地方裁判所堺支部平成11年 8月25日判決 判例タイムズ1042号 199頁

(争点)

分娩監視等に不適切な点があったか否か

(事案)

X1(新生児Hの母)は、平成5年9月28日、M病院で診察を受け、妊娠していること、出産予定日は平成6年5月15日である旨診断された。以後、X1は、M病院で診察を受けていたが、同病院の担当医師から、「股関節脱臼のため、足があまり開かず、自然分娩は難しい。帝王切開をすべきである。」旨告げられた。

X1及びX2(新生児Hの父)は、自然分娩を望み、同年4月15日(妊娠35週目5日目)、X1は、Y医療法人の経営する病院(以下、「Y病院」という。)産婦人科を外来受診し、診療部産婦人科部長として勤務しているO医師の診察を受けた。その際、X1は、O医師に対し、M病院で股関節脱臼のため、自然分娩は難しいと言われたが、Y病院で経膣分娩ができるならば、経膣分娩をしたいと述べた。これに対し、O医師は、「股関節脱臼だけでは、帝王切開の適応にならない。分娩経過をみて、経膣分娩が可能であれば、経膣分娩をしましょう。もし、母子ともに危険があれば、帝王切開しましょう。」などと述べたため、X1は、Y病院に転院することとした。その際、O医師は、X1に対して、塩分や糖分を制限するように指導した。

X1は、同年5月2日及び9日にY病院を外来受診し、O医師から糖分や水分を控えること、体を動かすことなどの指導を受けた。また、その際、頸管の成熟を図るため、マイリス200mgの投与を受けた。エストリオール検査の結果も特に異常はなかった。

X1は、同年5月16日(妊娠40週1日)に外来受診した。そのとき、胎児の児頭は骨盤に固定し、子宮口がやや開大していた。

O医師は、X1に対し、予定日である同年5月15日から分娩に至らないまま2週間を経過すると過産期となり胎盤機能不全や巨大児傾向による難産の可能性が大きくなり、胎児胎内死亡の確率が増大するので、通常は正期産として妊娠42週までに分娩を終了するのが望ましいこと、5月23日で妊娠41週1日となるので、それまでに自然陣痛が起こらない場合には、シントシノンの点滴で分娩誘発を施行することを説明し、同意を得た。また、同日、頸管の成熟を図るため、マイリス200mgを投与した。なお、同日行ったエストリオール検査において、胎盤機能の低下を示す結果が出たため、同月18日に再度検査をしたが、特段の異常はなかった。

X1は、同年5月23日(以下、特段の断りのない限り同日のこととする。)午前8時ころ、分娩誘発のためY病院に入院した。入院当時、X1には陣痛はなく、腹緊があり、児心音は約135bpmであった。

午前9時17分ころ、E医師が、X1を診察した。子宮口はやや開大で、子宮膣部は堅かった。児頭の位置はステーションマイナス1であった。そこで、E医師は、シントシノン10単位を5%ブドウ糖500mlに混和した溶液を用いて分娩誘発をすることを決定した。当時、X1には分娩陣痛はなく、腹緊があり、児心音は144bpmであった。頸管の成熟を図る目的で、マイリス200mgを投与した。

午前10時30分ころ、B助産師が1mlあたり20ミリ単位の濃度のシントシノンを毎分5滴から点滴静注を開始した。この時、X1の陣痛は不規則かつ微弱で、児心音は約140bpmであった。

午後0時ころ、F助産師がX1を観察した。破水及び出血ともなかった。シントシノンを毎分8滴に増量した。陣痛は不規則かつ微弱で、児心音は約148bpmであった。

午後1時ころ、X1は、陣痛室から1551号室に移動した。

午後1時20分ころ、G医師がX1を診察した。子宮口は1.5cm開大していた。破水及び出血はともになかった。シントシノンを毎分10滴に増量した。陣痛は不規則かつ微弱で、児心音は約136bpmであった。

午後2時ころ、B助産師がX1に分娩監視装置を装着した。

装着直後に児心音に一過性徐脈が認められたが、X1を左側臥位にしたところ児心音は回復し、以後徐脈は認められなかった。

そのころ、シントシノンを毎分12滴に増量した。破水及び出血はともになかった。陣痛は不規則で、児心音は約160bpmであった。

午後3時6分ころ、B助産師がX1を観察し、分娩監視装置を外した。その際、B助産師は、C医師に対して、一過性徐脈が出ていたことを報告したところ、C医師は、経過観察を指示した。

そのころ、シントシノンを毎分15滴に増量した。陣痛は不規則で、児心音は約160bpmであった。

ところで、X1は、シントシノンの点滴を開始した午前10時30分ころからトイレに行っておらず、尿意を催していたため、分娩監視装置が除去されると直ちにトイレに行った。トイレに行った際、ショーツに直径2ないし3cmくらいの血が付いていた。X1は、右の出血がいわゆるお印といわれている出血とは異なるような気がして心配になったため、生理用ナプキンを装着した後、トイレから病室へ帰る途中に詰所に立ち寄って、出血があった旨述べたところ、その者から、「お産が進んでいる兆しなので、そのまま帰って部屋で待っていてください。」と言われたため、病室に戻った。

X1は病室に帰ったが、病室の入り口当たりで急に腹部に激痛が走ったため、なんとかベッドまで戻ってナースコールをしたところ、スピーカーから、「どうされました。」という応答があったため、「Xですが、急におなかが痛くなったんですけど。」と返答したところ、「参ります。」旨の応答があった。

上記ナースコールの後、A助産師がX1のところまで来て、「陣痛は何分間隔?」と聞いたのに対し、X1は「痛みが全然治まらない。間隔がない。」旨答えたところ、さらにA助産師が「1分間隔ぐらい。」と尋ねたが、X1は、痛みのため、まともに答えることができず、「わからへん。」とのみ答え、その後は「苦しい。痛い。」と叫んでいた。

A助産師は内診を行おうとしたが、X1がA助産師に対し、頭を右にして寝ていたため、内診を行う右手が挿入しにくく、また、X1には、先天性股関節脱臼による開排制限があったため、子宮口まで内診指を到達させることができなかった。そこで、A助産師は、内診の協力を得るために、詰所にいるB看護師を呼んできて、共同して内診した。内診の際、膣内からドロドロした血の塊が出てきた。

あまりの痛さから、X1が、「この痛みはどのくらい続くのか。」と聞いたところ、A助産師は、「まだ、1期(ないし1指)だから。」と言い、また「パットどこにある。」と聞いたため、X1は「一番大きな袋にある。」と答えたところ、A助産師は、パットを取り出して、X1にあてがった。

その後も、X1は、激痛が治まらず、嘔気がしたため、A助産師に告げたところ、A助産師は膿盆を持ってくるなどしてくれた。

その後、仕事を終えたX2が午後4時30分ころに、病室にX1を見舞った。X2が病室に入ると、X1が痛みを訴えて苦しんでおり、お尻の割れ目の部分からベッドのシーツにかけて大量の血が流れ出ていた。X2は、X1に対し、「どうしたんや。大丈夫か。」などと声をかけたところ、X1は「痛みがとまれへんねん。」などと答えた。X1のそばにいたA助産師に対し、「陣痛ですか。」と問うたところ、A助産師は「1分間隔で強い陣痛が来ています。」と答え、点滴を操作して、シントシノンの点滴量を8滴に減らした後、「今、点滴を減らしたから、楽になります。」とX1に話しかけた。

X2は、X1が苦しんでいることを双方の両親に連絡するため、病室から出て行き、その後、A助産師も病室から出ていった。2本の電話を終えて病室に戻ったX2は、X1の背中をさすったりしていた。そのうち、A助産師が病室に帰ってきた、「ご主人さんは出て下さい。」といってカーテンを閉めて、X2は、カーテンの外に出された。

X2は、再度、双方の両親に電話をするため、詰所横の公衆電話に行き、午後5時ころ、病室に戻った。

その間の4時50分ころ、シントシノンの点滴は毎分5滴に減量された。なお、午後4時30分ころの胎児心拍数は約136bpm、午後4時40分ころの胎児心拍数は約128bpm、午後4時50分ころの胎児心拍数は150bpmと記録されている。

午後5時9分ころ、O医師がX1を病室で診察した。破水はまだで、子宮口は1.5cm開大のままであった。O医師が児心音を確認したところ、70ないし60bpmの持続性徐脈の出現を認め、超音波断層装置にて確認したところ、常位胎盤創早期剥離の疑いがあったため、緊急帝王切開術を決定した。そのため、シントシノンの点滴静注を中止して、ソクラクト500mlの点滴に変更し、酸素を5l/分の割合で投与した。

O医師は、午後5時25分に帝王切開術の執刀を開始し、午後5時25分にH(男児)が娩出された。Hは出生時仮死であり、心停止、自発呼吸もない状態であったため、直ちに、Hに対し、心マッサージや気管内挿管など、心肺蘇生術が施行された。Hのアプガースコアは、出生1分後が2点、5分後が3点、30分後が6点であった。

R母子総合医療センターの意思が緊急に呼ばれ、Hの処置に当たっていたが、その後、Hは救急車にてS市民病院新生児集中治療室(NICU)へ転送された。S市民病院に搬送されたときには、Hは意識及び呼吸運動は見られず、四肢には、持続する痙攣が見られ、肺出血による重度の呼吸不全を呈し、血圧低下も見られたことから重度の低酸素生虚血性脳症と診断された。

Hは、同年6月28日、S市民病院において死亡した。直接の死因は低酸素性虚血性脳症であり、その原因は、常位胎盤早期剥離による出生時仮死とされている。

他方、X1は、帝王切開術後に播種性血管内凝固症候群(DIC)の疑いがあり、深部帝王切開術、子宮膣上部切断術、左側付属器摘除術を行った。

そこで、Xらは、Hが死亡したのは、Y病院の医師及び助産師らの分娩監視等に不適切な点があったためであるなどと主張して、Yに対し、損害賠償請求をした。

(損害賠償請求)

請求額:
(両親合計)4866万9166円
(内訳:死亡慰謝料2300万円+入院慰謝料50万円+S市民病院での治療費48万6390円+葬儀費用130万円+逸失利益1931万9416円+両親の通院交通費6万3360円+弁護士費用400万円)

(裁判所の認容額)

認容額:
(両親合計)4480万5806円
(内訳:逸失利益1931万9416円+入院及び死亡慰謝料2000万円+治療費関係48万6390円+葬儀費用100万円+弁護士費用400万円)

(裁判所の判断)

分娩監視等に不適切な点があったか否か

この点について、裁判所は、X1は、午前3時15分ころに病室に戻ったときに腹部に激痛が走ったことから、ナースコールをし、病室を訪れたA助産師に異常を訴えたものであり、膣内からは血の塊が出るなど相当の性器出血があったものであると判示しました。

X1に性器出血があったこと、それまで分娩監視装置を付けていた時間には、有効陣痛が発来していなかったにもかかわらず、突然、X1に腹痛が発生し、X1が尋常でない激痛を訴えていること、Y病院ではX1に対してシントシノンによる分娩誘発を行っており、その許容量の最大量の点滴中に上記異常が生じていることなどからすれば、Y病院の助産師らは、X1に起こった激痛等の異常について、単なる陣痛の発来などと速断するのではなく、直ちに分娩監視装置を装着して母子の状態を観察したり、また、速やかに医師の診察を求めるべき注意義務があったといわなければならないとしました。   

しかしながら、Y病院の助産師らは、漫然と、経過観察をして、午後5時9分ころのO医師の回診のときまで特段の治療も、医師への報告もしなかったのであるから、診療上の注意義務である分娩監視義務に反し、債務不履行ないし不法行為における過失と評価すべきであると判断しました。

以上から裁判所は、上記(裁判所の認容額)の範囲でX1らの請求を認めました。この判決は控訴されましたが、控訴審で和解が成立して、裁判は終了しました。

カテゴリ: 2021年4月15日
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