今回は帝王切開後に新生児が死亡した事案で、分娩時の観察・監視につき病院側の過失が認められた裁判例を2件ご紹介いたします。
No.428の事案では、産婦に発症した常位胎盤早期剥離の原因についても争点となり、遺族は陣痛促進剤(シントシノン)の利用による過強陣痛の発生によるものだと主張し、病院側は産婦のエーラス・ダンロス症候群(結合組織成分に富む皮膚、関節、血管、腱、靭帯、筋膜の弾力性と物理学的抵抗の減弱を示す先天性疾患)が原因だと主張しました。
裁判所は、帝王切開後に大学医学部教授が実施した産婦の生検皮膚の検討結果、産婦に先天性股関節脱臼及びアキレス腱の異常があったこと、産婦の手術時の症状などから、産婦がエーラス・ダンロス症候群であると認定しました。
そして、産婦の常位胎盤早期剝離は、エーラス・ダンロス症候群により、子宮壁、基底脱落膜及びその間を介在する結合組織が脆弱であったことが基本的な要因と推認するのが相当と判断し、これに対する陣痛促進剤の関与についてはその有無、程度を含めて不明というしかないと判示しました。
ただし、裁判所は、エーラス・ダンロス症候群はあくまでも常位胎盤早期剝離の発生の機序にすぎないのであって、常位胎盤早期剥離が発症してからの医療機関側の対応については、発症の原因如何に関わりはないとして、エーラス・ダンロス症候群が極めて希な疾患であるから病院側にこれを前提とした注意義務違反の過失はないとの病院側の主張を採用しませんでした。
No.429の事案では、胎児仮死が発生した時点及び原因も争点となりました。
この点につき、裁判所は、本件においては陣痛が発来し始める以前から、胎児の循環機能が臍帯の異常によって弱まり始めていたものの、臍帯への圧迫が弱かったため、臍帯内の血流を上昇させることによって循環機能を維持することができていたが、陣痛が発来し始めた時点から臍帯への圧迫が徐々に強まり、最も陣痛が強まった5月25日午後2時30分ころの時点において臍帯に強い圧迫が加わった結果、メトロが脱出した同日午後3時28分ころの時点では、胎児が仮死状態に陥っていたとの経過が高度の蓋然性をもって認められると判示しました。
また、病院側は、分娩監視装置を装着することは当時必ずしも義務づけられていなかったこと、同装置の装着により母体の可動が制約されるとの負担があることから、その装着は医師の裁量に委ねられる旨主張しました。これに対し、裁判所は、本件においては、胎児仮死が発生する危険性が極めて高かったといえるから、そのようなリスクと母体の負担を比較考慮すると、本件では胎児仮死の発生を防止すべく、母体に可動の自由の制約を課してでも分娩監視装置を装着する義務があったというべきであって、これを行わなかった病院医師は明らかに裁量を誤ったものというほかはなく、病院側の主張は理由がないとしました。
両事案とも実務の参考になるかと存じます。